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「なぜ、上流の水の流れは透明なのか」



―河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える―

   第5章「コンクリート護岸」(4/6)-第3節の(2/2)

第3節「コンクリート護岸」による不都合の様々な状況 の続き

上流や中流の河床をコンクリート敷きに変える工事

 上述の事を考えれば、傾斜の大きい場所の川底の全てを最初からコンクリートで覆ってしまう方法は、合理的で効率的な工事方法だと思われるかもしれません。しかし、この方法はとんでもない欠陥を抱えた工事方法だと言えます。
  コンクリートに耐用年数がある事は、コンクリートの川底の場合でも同じです。コンクリートの河床も耐用年数に至れば全面的に作り替える必要があることはコンクリート護岸の場合と同じです。
 いやそれ以上に、早い時期に作り替える必要が生じるでしょう。コンクリートの川底では、増水の度に多くの石や岩が流下しますから、その傷みが早く生じることが考えられます。

 上流や中流にある石や岩の堆積のほとんどは、長い年月の内に少しずつ流れ下って来た石や岩が堆積したものです。そして、長い年月を掛けて少しづつ流下して行くのです。この事は石や岩が大きい上流であっても同じです。
 土石流や土砂崩れによる石や岩であったとしても、それらは長い年月をかけて徐々に他の石や岩と混じり合い流下して堆積していきます。それらの石や岩が磨滅して流下していく時もその進行は少しずつ進みます。また、そのような長い期間の間には上流から大きな石や岩が流下して来る可能性もあるのです。
 流れの特定の場所の河床が突然に岩盤に替わってしまう事は、火山爆発による溶岩流などが無い限り有り得ないのです。さらに自然の岩盤の場合であれば、それらが短期間に破壊されてしまう事も有り得ないのです。
 つまり、川底が突如としてコンクリート敷きに変わってしまうような現象は、自然では有り得ない出来事です。

 河床をコンクリート敷にしてしまえば、上流からの水流も土砂もそれらの場所に止まることなく急速に下流側に流れ下ります。つまり、急激な増水と急激な減水が常に発生するようになります。
 河床のコンクリート敷は、上流に増水や土石流や土砂崩れがあっても、それらの水流や土砂のほとんどを直ちに下流側へ流し去ります。
 しかも、そのコンクリートの河床は短い年月の経過ごとに作り替えなければなりません。作り替えなければ、それらの場所の広範囲の河床が短期間のうちに崩壊します。もちろん、それは治水的に重大な問題なのです。
 土砂の流下を押し止めるために砂防堰堤を設置しているのにも拘らず、その下流側にコンクリートの河床を設置している場所を見ることも多くあります。それらは、整合性を全く欠いた河川工事です。

 コンクリートの川底に以前の状態を回復させるためには、元あった大きな石や岩を取り戻すしかありません。でも、川底をコンクリート敷きに変えた場所は、その他の場所よりも急傾斜であったことが多いのです。つまり、以前その場所にあった石や岩は、コンクリート敷きではない場所にある石や岩よりもずっと大きな石や岩だったはずです。でも、失われたそれらの大きな石や岩はどこにあるのでしょうか。どこまで流れ去ったのでしょう。或いは、だれがどこへ持ち去ったのでしょうか。
 上流や中流の河床をコンクリート敷きに変える事はとんでもなく間違えた工事方法です。流れの傾斜が大きい場所で川底の全面をコンクリートで覆うことは、下流側の治水状況を悪化させるだけで、大きな費用をかけても治水的効果が望めない、間違えた方法でしかありません。それらは、急激な増水と急激な減水を生じさせるばかりか、短い期間ごとの河川工事の必要性を増加させるだけです。

 川幅の多くが「葦」で覆われた水流
コンクリート護岸で両岸を囲まれた流れの多くが、植物の「蘆」(アシ)で覆われている上流や中流を見る事があります。但し、これは本州中部に限っての事かもしれません。他の地方では違う植物である可能性があります。

 以前は石や岩が多くあったはずの流れの両岸にコンクリート護岸が建設されて、いつの間にか流れの多くが蘆で覆われてしまいました。余りにも多くの蘆が生育しているので、浅い水流があっても近寄らなければ水流の位置を確かめる事が出来ないこともあります。
 僅かに残る水流の場所だけが水面を見せている事が多いのですが、水流の中にも根が伸びて、水面の全てを蘆が覆ってしまう事もあります。
 そのような場所の川底は砂や小砂利であることが多いのです。でも、川底が石や岩である場所にも蘆は成長します。それらの場所の石や岩は、握りこぶし大の大きさやそれより小さな石であるのが普通ですが、場所によっては人の頭より大きかったりすることもあります。
 蘆は水辺の植物です。湿地や浅い水流の場所などに生えるのが普通で、乾燥した場所に生育することはありません。ですから、コンクリート護岸で囲まれた流れの多くや全てが蘆で覆われている事は、それらの場所に水流があるか、水流が無い場合であれば水分が多い場所である事を示しています。
 自然のままの上流や中流でも岸辺に蘆が生育している場所はありました。しかし、各地の流れの全てに蘆の生育があったのではなく、葦の生育が多い水流もあれば、ほとんど蘆が見られない水流もありました。
 蘆が生育している河川であっても、蘆は水辺にだけ生えて水辺を離れた小高い岸や河川敷には生育していませんでした。また、流れの深い流心に成育することもありませんでした。水辺に蘆が多い流れでは、昔は、季節によって農家の皆さんがそれらを刈り取り、畑に施していたとも聞いています。
 ですから、石や岩の多い上流中流であっても、蘆の生育自体は自然な状態だと考えられます。しかし、コンクリート護岸に囲まれた川幅の多くや全てが蘆で覆われてしまうのは異常です。
 蘆によって水面を覆われた水流は、コンクリート護岸の建設によって形成されました。両岸がコンクリート護岸で覆われれば、川底の横断面はU字型から凹字型に変化します。その結果、流心に集中していた水流が川幅一杯に広がり、その全面が浅く穏やかな水流に変化しました。つまり、葦の生育に適した場所が大きく広がりました。

 繁茂した蘆で水流が覆われる現象は、流れの傾斜が少ない場所で生じている事が多いようです。流れの傾斜が少ない場所でも、コンクリート護岸の岸辺から大きな石や岩が確実に流れ去り、それらによって維持されていた陸地側の乾いた土砂も失われたのです。
  この現象の発生は、その場所の水量や水深も関係していると考えられ、また、年ごとに変動する気象の違いが蘆の成長に関係していることも考えられます。繁茂した蘆で覆われた水流は、高さの低い小さな堰堤の上流側などで多く見られる印象があります。そして、一旦、蘆が繁茂し始めればその拡大は止めようがないようです。
 このような状況を河川の管理者は好ましく考えていないようで、余りに蘆の繁茂が甚だしい場所では、数年に一度くらいに蘆は排除されています。
 多くの場合で、蘆は刈り取られるのではなく重機で毟り取られています。この方法は費用が少なくて済むのでしょうが、却って蘆の生育を促進しています。作業の後を見ればそれは直ぐに分かります。
 蘆を毟り取った跡は、平らに整地されている事が多いのです。また、重機が通り過ぎた跡の石や岩の中には割れているものが多くあります。きっと、翌年からは、より早く蘆が繁茂することでしょう。
 コンクリート護岸で両岸を囲まれた流れが蘆で覆われれば、増水時にはその場所の水流が滞り、上流側で洪水が発生する可能性が生じます。
 河川敷の蘆には上流からのごみが引っ掛かる事が多くあり、農業用ビニールやレジ袋が人の背丈よりも高い位置に掛かっている光景を見る事も珍しくありません。
 蘆の繁茂が流れを覆ってしまう現象は規模の小さい流れで生じることが多いので、大規模な洪水が発生することは少ないと考えられますが、洪水が発生する可能性は否定できないでしょう。規模が小さな洪水では全国的なニュースになる事が少ないと思われますから、全国各地で同様の洪水が発生している可能性は多くあると考えています。

広い河川敷がある中流域の「コンクリート護岸」
 普段の水量がそれほど多く無くなくても、広い河川敷に多くの石や岩がある中流域があります。それらの河川敷は、増水時に水流に覆われることによって下流部への急激な増水を減少させています。そのような中流域でもコンクリート護岸が周囲の石や岩を容易に流下させてしまう事は、河川敷が狭く水量が少ない上流で生じている事と同じです。しかし、それらの場所で生じている事とは別の状況が生じています。
 水量に比較して河川敷が広い中流域では、コンクリート護岸の岸辺から大きな石や岩を含む土砂が容易に流下して行くことの影響が、直ちに流れの中央部にまで広がることはありません。でも、コンクリート護岸の影響は岸辺から徐々に広がって行きます。

  岸辺の流れがコンクリート護岸の底を深く侵食することが多くあるので、その現象を防ぐために、護岸の底にコンクリートのブロックを設置します。それでも水流は岸辺に集中しますから、増水時の強い流れを弱め或いは強い水流を岸辺から遠ざける事を目的にして、コンクリート製の水制(スイセイ)を設置することも多くあります。
 コンクリート水制は、太くて短い柱を幾つか並べた形の構造物である事が多く、それらは中流域の岸辺でよく見かけます。また、同様の機能が期待できる何種類かのコンクリート製の構造物を設置することも普通です。
 それでも水流はコンクリート護岸の岸辺側に寄って流れようとします。水流は増水時に深く流れた場所を流れようとする傾向が強いのです。

 広い河川敷がある中流域では、川幅一杯に水流が広がる機会は数年や数十年に一度位しかありませんから、川底の横断面が直ぐに凹字型に変化してしまう事は多くないでしょう。その代わり、蛇行する水流が片側や両側の岸辺に寄ってしまうことが多くあります。
  コンクリート護岸以前でしたら、水流は小高い両岸を離れて川幅の中央付近で蛇行することが多かったのですが、コンクリート護岸以後では、蛇行の一部は必ず岸辺の何れかに沿って流れます。時として、護岸に沿っているだけの流れになる事もあります。また、水流が網目状に分流することも増えます。

 水流の場所が河川の中央を離れコンクリート護岸の前にばかりに偏る傾向が発生すれば、中州が形成されることが増えます。中州は、片側の岸辺を少し離れた近くや、両側の岸辺近く或いは中央部に形成されます。そのような状態が何年か続けば、中州には草木が成長します。木々が生い茂った中州は増水時の水流の流下を妨げ、治水に悪影響を与えています。
 河川の中州が、河川全体の水流と土砂の流下量を低下させることは、河川の横断面を考えれば容易に理解できることです。コンクリート護岸以前でしたら、増水時の水流はU字型の横断面の川床を流れていましたが、中州が出来れば水流はW字型の横断面の川床を流れます。もちろん、U字型の断面積の方が流れる水量と土砂量が多い事は言うまでもありません。
 今では、コンクリート護岸の中央側に中州が形成された光景や、それらの中州に木々が生い茂っている光景は、日本中の各地で普通に目にする光景です。それらの光景は、コンクリート護岸の建設以前には目にすることはなかったはずです。でも、コンクリート護岸建設以前の河川の様子を覚えている人は、もう、少ないでしょう。また、地域のありふれた河川の光景などを記録した写真もほとんど無いと思います。

 水流が網目状に流れるのは、河川敷の土砂の大きさが小さくなり、それらが平面的に広がっている証です。一般的に、中流域で蛇行して流れた水流は下流域に近づくほど網目状に広がり易くなります。網目状の流れはそれらの場所の土砂の多くがほとんど同じくらいに小さくなる区域での現象では無いでしょうか。つまり、水流の場所がそれだけ移動し易いからだと考えられるのです。もちろん、それらは河川敷が広い流れに限っての事柄である事も考えられます。
 ですから、下流域に近いとは言えない中流域に網目状の流れが生じる事は異常な事です。それらの場所には、コンクリート護岸の建設以前の土砂堆積量よりも多くの土砂が堆積しています。

広い河川敷がある中流域の「コンクリート護岸」の土砂流下
 コンクリート護岸の建設以後に生じた上記の中流域の状況は、水流による自然の土砂流下の機能を低下させています。
 岸辺のコンクリート護岸により水流が分流した場合では、それぞれの流れの水深は浅くなりますから、土砂の流下作用を低下させています。水流が集中して水深が深くなるほど土砂流下作用は強いのです
 そして、広い河川敷がある流れのコンクリート護岸であっても、護岸の周囲の石や岩が容易に流下しますから、「自然の敷石」や「自然の石組」が形成されなくなる事は、流れの幅の狭い上流部の場合と同じです。

 広い河川敷がある事が多い、中流域での土砂流下の状況は全く惨憺たる状況です。上述した幾つかの事柄に加えて、それぞれの場所の上流側に数多くある砂防堰堤やコンクリート護岸の影響も大きいのです。
 つまり、上流側にある砂防堰堤やコンクリート護岸によって大量の小さな土砂が流下して来ています。それらの土砂は、上流側に間違えた建造物が無ければ発生しなかった土砂です。しかも、それらは年を経るごとに堆積量を増大させています。と言うのも、第1章「流下する土砂が途中で堆積する理由」で記述しているように「河川にある全ての土砂は、それぞれの大きさに相応しい場所以上に流下する事はありません。」からです。
 そして、それらの状況が改善される事がありませんから、それらの土砂は年々増加していくばかりです。流れの傾斜が少なく、それらの土砂の堆積範囲が広がった中流域であったとしても、それ以上に堆積土砂量が増え川床が上昇しています。
 また、中流域のコンクリート護岸ではその周囲の石や岩を河川の外部に持ち出すことが普通に行われています。「自然の敷石」や「自然の石組」の形成がある中から石や岩を取り出すのは容易ではありませんが、「自然の敷石」や「自然の石組」が形成されていない場所から石や岩を取り出し持ち出すのは容易な事です。但し、現在の重機を用いれば、いずれの場所でも石や岩の持ち出しは容易かも知れません。

 それぞれの河川ごとに異なる水流と土砂の流下状況と、それぞれの年ごとに変化するそれぞれの場所ごとの状況を総合的に考え明瞭に理解することは、全く困難と言えます。
  ですから、それぞれの河川ごとそれぞれの場所ごとそれぞれの年月ごとに土砂流下の状況を判断するしかないでしょう。それでも、上流部の砂防堰堤や上流や中流のコンクリート護岸の影響を考えると、広い河川敷がある中流域でも土砂の堆積量が多くなっている事は間違いありません。そして、その事実は、各地の中流域で多発している洪水の原因の一つともなっています。
 コンクリート護岸の影響によって河川で生じた変化の状況や、護岸建設以前の状況については、それらの流れの周囲に住んでいる住民の皆さんに確かめて頂くほかありません。それぞれの地元に住む多くの皆さんによって、砂防堰堤やコンクリート護岸がそれぞれの河川へ及ぼしている影響を実際に確認して頂けることを強く願っています。

                  

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