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        第6章 貯水式ダムの問題(3/4)−第3節

「なぜ、上流の水の流れは透明なのか」



―河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える―

   第6章 貯水式ダムの問題(3/4) -第3節

第3節 貯水式ダムに堆積する土砂

貯水式ダムの性質
 最近、各地で発生している水害をめぐって、貯水式ダムが話題になることが多くあります。この問題も、上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考慮してみると、従来とは事なった考え方を見出す事が出来ると思います。  
 貯水式ダムでは、貯水池に土砂が堆積することは不可避です。そして、今までのダム建設ではそのことを考えることが少なかった。或いはほとんど無視してきたのではないでしょうか。そして、残念な事にその状況は現在でも続いています。  

 この論述では、その言及の対象を山岳地帯のダムに限っているのですが、問題点を明らかにするために、中流や下流の貯水式ダムについても考えてみます。それらの地域の貯水式ダムは、一般的には「ため池」と呼ばれています。  
 上流中流の貯水式ダムもため池も、共に、大量の水を貯水するために大小の河川を堰き止め、或いはそこから水流を導いている場合がほとんどだと思います。でも、そこには大きく異なっている事があります。まず、立地する場所の条件が異なります。一方は山岳地帯の上流や中流であり、もう一方は平地近くの丘陵地の流れであることが多く、本書で言う上流区域であることは少ないのではないでしょうか。また、その歴史も異なっています。上流中流の貯水式ダムは近代から現代の歴史しか無いと思いますが、ため池は、歴史書が記述され始めた頃から建設されてきたようです。山岳地帯のダムはその規模が大きい事は珍しくありませんが、ため池では、山岳地帯のダムと比較すれば、ずっと小さな規模でしかありません。
 両者ともに、上流側からの水流を堰き止めているために、流下してくる土砂を貯水池の水底に堆積させる事も、共通しているのですが、それら堆積する土砂の量とそれに対する対応方法は全く異なっています。

 山岳地帯のダムは、傾斜が急な山岳地帯を水源にしているため、堆積土砂の量が大変多く、石や岩も多く含まれているのが普通です。そして、ほとんどの場合で、ダムの建設時より以降は、貯水池に堆積した土砂が排出されることがありません。幾つかのダムでは排出を試みることがあるようですが、堆積土砂の全体量を考えれば、ほとんど排出していないに等しい場合が多いと考えられます。

 一方、ため池の場合では、水源区域が比較的狭く山岳地帯であることもなく、流れ込む水量も山岳地帯のダムより少ないのが普通で、堆積土砂には砂や土が多く、その量も山岳地帯のダムよりずっと少ないようです。そして、多くの場合で、一年に一度くらいは堆積土砂のほとんどを水流と共に排出していると思います。しかも、それら水流の排出行為は短期間ではなく、しばらくの間続けるので、排出水量もいちどきに多くなる事はありません。つまり、耕作に必要な時期に必要な水量だけを流下させているようです。また、水流と共に排出された土砂は、耕作地に堆積して新たな栄養成分として作物の成長に役立っていると考えられます。  

 これら、山岳地帯の貯水式ダムと平地のため池は、共に、貯水することをその役割としている中で、貯水した水と堆積した土砂に対する対応方法が全く異なっています。そして、両者共に言える事は、上流側からの水流を堰き止めれば、その場には必ず土砂が堆積すると言う事実です。
 なお、貯水池への土砂の堆積をダムの下流側から見れば、上流から流下してくる土砂の枯渇を意味します。したがって、貯水式ダムへの堆積土砂が不可避であることは、同時に、下流側の川床の低下や浸食や河川の荒廃と海岸の浸食もまた不可避であることを意味します。

堆積土砂の基本的問題  
 第4章では「砂防堰堤」に堆積した土砂の問題について考察しましたが、この項目では、「貯水式ダム」に大量の土砂が堆積する事から生じる問題を、ダムの目的との関係から考えてみます。

 「貯水式ダム」の湖底に土砂が堆積する過程は、その規模が大きくなるだけで「砂防堰堤」に土砂が堆積する過程とほぼ同じではないかと考えられます。でも、堆積した土砂が堰堤上端から流下して行く「砂防堰堤」の場合とは異なり、「貯水式ダム」ではほとんどの場合でそれらの土砂を流下させることはありません。また、砂やそれより小さな泥などの小さな土砂がダム堰堤近くで極めて大量に堆積することも「砂防堰堤」の場合とは異なっている事でしょう。
 どれほど大きな「貯水式ダム」であっても、貯水池は、流下して来た土砂によってやがては埋め尽くされてしまいます。但し、土砂によって埋め尽くされると言っても、「砂防堰堤」のように、その上端にまで土砂が堆積することはないようです。多くの場合で、土砂は、それよりも低い位置までしか堆積しない構造になっています。
 ダムを建設する目的は大きく分けて三つに分けられるようです。第一に、ダムの目的が発電にある場合。第二に、ダムの目的が利水にある場合。第三に、ダムの目的が治水にある場合。そして、それら複数の目的を同時に満たす多目的ダムと呼ばれるダムもあります。

(1)発電を目的とするダム
 この章の第一節で記述したように、発電を目的とするダムの場合では、ダムの貯水池が土砂で埋まってしまっても、発電所とダムの取水口の間に高低差があれば発電は可能です。ですから、取水口に土砂が流入しない程度の深さの貯水池があれば発電できると考えられます。ただし、この時には、建設当初の容量の貯水池に比べ、発電機稼働の自由度は失われてしまいます。何時でも、どれ程の時間の出力であっても、貯水量に応じて自由に稼働させることが出来た発電能力は低下して、流下してくる水量によって、ほとんど制約されてしまう事でしょう。
 また、小規模な発電を想定している小規模なダムの場合では、砂防堰堤の場合と同様に堰堤上端から水流や土砂が流下している状況もあります。この場合での問題点は「砂防堰堤」の場合と同じです。

(2)利水を目的にするダム  
 利水を目的とする場合でも、発電を目的とする場合とそれほど違わない状況があると考えられます。工業用水や農業用水や水道用水を常に一定量確保出来るのならば、問題は大きくありません。しかし、それらの用水でも、一定量以上の水量を必要として、流下水量の季節的変動を補う必要がある場合では、貯水池が土砂で埋まってしまうことは致命的欠陥となります。つまり、渇水期などに備えて貯水する事が出来なくなるので、必要とする水量が確保できなくなってしまいます。

(3)治水を目的とするダム  
 治水を目的とする場合では、貯水池が堆積土砂によって埋め尽くされてしまえば、治水能力が無くなってしまいます。つまり、降雨による大量の水を一時的に貯水池にとどめる事が出来なければ、治水ダムの意味はありません。このことは、少し異なった視点から考えると、奇妙な事でもあるのです。
 つまり、治水を目的とする「貯水式ダム」では、その完成時に最大の治水能力があるのですが、年数を経るごとに、言い換えると、土砂堆積量が増大するほどに治水能力が減少することになります。たとえば、百年に一度の大雨であっても下流の洪水を防ぐことが出来るなどと言っても、何年かすれば、それは嘘になってしまいます。

 このような事情から、治水を目的にする場合では巨大なダムの建設が叫ばれる事が多いのではないかと思われるのですが、そのことは、将来、困難を増大させることになります。
 と言うのも、山岳地帯の貯水式ダムでは河川の傾斜が大きいので、貯水水量を多くすればするほど、つまり、治水能力を大きくするほど堰堤の高さを高くする必要があります。それは、堆積可能な土砂の量を増加せる事でもあります。そして、ダムの建設地を上流側にするほど堆積土砂量が増加する事も、一般的に言えることでもあるのです。

(4)多目的ダムの場合  
 幾つかの目的を同時に叶える事を目指した多目的ダムでは、それぞれのダムごとに、満水時の貯水可能量を目安にして、それぞれの目的ごとの貯水容量を区分しているようです。  
 上述したように、「貯水式ダム」では、堆積土砂による貯水池の容積の減少はそのダムの機能に関わる重大な問題であるのですが、河川での土砂流下は自然の摂理ですから、堆積土砂を止めることは出来ません。  
 それでも、上流からの土砂流下量を減少させる工夫が行われています。その一つが上流側の支流や沢への多くの「砂防堰堤」の建設でした。でも、期待された「砂防堰堤」がその役に立たないどころか、逆に土砂の流下量を増大させている事は既に記述した通りです。また、「コンクリート護岸」も多くの場所に設置されて、土砂流下量を増大させています。  

貯水式ダムの排砂について  
 ダム湖に堆積した土砂を水流の力によって排出させることを「排砂」(はいさ)と呼び、機械力などによって貯水池に堆積した土砂を排出する場合と区別しているようです。土砂堆積量を減らすことを目的にして、幾つかの排砂方法が考えられ実施されていますから、それらとそれに関連する事柄について少し考えてみます。

(1)排砂バイパス 
 増水時に水流と共に上流から流れてくる土砂を、貯水池の上流部からバイパスを通して、ダム堰堤の下流側に流下させます。  
 この場合、問題は、土砂の量だけでなくその質も関係している事です。仮に、砂や濁り水だけを流下させるようであれば、自然の土砂流下状況とは明らかに異なりますから、何らかの不都合が生じる可能性が大きいのではないでしょうか。特に、自然環境及び生物への影響は大きいと考えられます。この問題は、第4章「砂防堰堤」で詳しく説明しています。
(2)フラッシング排砂  
 ダム堰堤の下部に「排砂ゲート」を設置して、一定規模以上の増水時に「ゲート」を開けることにより、それまでに堆積していた土砂を流水と一緒に流下させます。この方法は黒部川に建設された二つのダムで実施されているようです。この方法では、ダムの治水的機能はあまり期待できません。発電目的に特化させたダムであると言えるでしょう。  
 WEB上や手元にある公的資料では問題なく機能している旨の記述がありますが、実際には排砂時に、大量の砂や黒い濁った水が流下して、生物を死滅させるほどの影響が河川だけでなく海にまで達している事があるようです。なお、海外ではフラッシング排砂に成功しているとの説明もありましたから、何らかの原因を取り除けば問題が解消される可能性もあるのかもしれません。
 また、黒部川のダムの場合では、ダムの上流側に数多く設置されている小規模な「砂防堰堤」が、小さな土砂の流下量を増大させている可能性も考えられます。
 考えられる最も簡単な解決方法は、排砂の機会を可能な限り増やす事ではないでしょうか。つまり、一度に流下させる土砂量を減少させる必要があると考えられます。もちろん、それらの放流方法であっても急激な増水と急激な減水があってはなりません。

(3)ダム下流の水流の岸にダムから浚渫した土砂を堆積させる方法  
 以前、新聞で、天竜川の何れかのダムの下流側の岸辺に、ダムから浚渫した土砂を堆積させて、下流部への土砂流下を補う工事を行ったとの記事を見たことがあります。天竜川では、ダムの下流側の川床の浸食が著しいだけでなく、天竜川が流れ込む遠州灘海岸の浸食も甚だしいのです。この土砂排出工事が、その後どうなったのか、さっぱり分からないのですが、この方法は良い方法ではないかと考えています。  
 岸辺や河川敷に水流が及ぶのは増水時に限られます。規模の大きな増水時に、岸辺や河川敷に堆積した土砂が、その後の降雨や通常の増水によって次第に流下していくことは、自然の土砂流下現象です。したがって、平水では流れない岸辺の土砂であっても増水によって流下して行きます。しかも、流下して行く土砂の大きさやその量は、時々の増水の程度によって異なります。規模が大きな増水であるほど、大きな石や岩を流下させます。規模が小さな増水では流下するのは小さな大きさの土砂に限られます。

 この排砂方法は、自然の土砂流下の有様と同様のものであり、全く理にかなった、効果的で費用も少なくて済む良い方法であると考えています。
 ただし、下流側に堆積させる土砂の組成の問題を考えるべきでしょう。つまり、上流から流下してくる土砂の組成そのままを浚渫して、下流側に堆積させる必要があります。そして、自然のままの土砂流下を実現させるためには、現在のようにダム管理者の都合しか考えない放流方法は中止する必要があります。穏やかな増水過程と穏やかな減水過程による自然の河川の流下水量が必要です。多大な土砂量や多すぎる増水量も間違いです。それらの条件を守らなければ、ダム下流側への土砂堆積の方法は、ただの出鱈目な土砂廃棄になってしまうことでしょう。  

 これからの新しいダムの放流方法では、今までに蓄積された各河川の水量に関わる多くのデーターと、発展が見覚ましい降雨量の予測データーを使用して、ダムからの放流量を決定する必要があるでしょう。そこでは、ダムの放流開始、増水、減水、放流中止の各工程を今迄以上に多く繰り返して、常に、河川の自然の水量変化の状況を再現させる必要があると考えています。

(4)黒い濁った水  
 前述で黒部川での「黒い濁った水」と記述しましたが、今後この問題は各地のダムでも多く発生する可能性があります。  
 黒い水は、空気を多く含んだ水流に長期間接する事が出来なかった、川底深くの砂や泥が増水によって攪拌されて生じた、酸素が著しく欠乏した泥交じりの水です。色が黒いだけでなく、それが流れれば酷い悪臭が生じる事も多くあり、時として、それは「ヘドロ」とも呼ばれるようです。  
 この黒い水は、下流部や中流部で発生する事が多いのですが、砂や泥が多く堆積する場所であれば、上流部であっても発生するようです。この水が流下した場所では、魚類を始めとする多くの生物が酸素欠乏により死滅します。ただ、この水が流下し切ってしまえば、元の水流が流れることになりますから、黒い水が流れた後には、死んだ魚などが多く残されていても、毒物などの検出は出来ないのが普通です。
 黒い水の流下現象は、都市部の小河川で夏の夕立の後などに多く発生しています。上述の黒部川での黒い水も同じ性格の水であると考えられます。ダム堰堤近くに小さな砂や泥が多く堆積すると共に、その底に酸素が欠乏した泥も多く堆積して、それらが「フラッシング排砂」によって一斉に流下したのだと考えられます。都市部の小河川の場合では、急激な増水が川床を攪拌したのであり、黒部川の場合では、急激な水流の増強が川床を攪拌したのだと考えられます。  
 また、この現象は黒部川のダムの場合だけには限らないようです。しばらく前、駿河湾で、「サクラエビ」の不漁問題が発生しました。駿河湾の最奥部に流れ込む「富士川」河口の近くには、ダムからの水を海へと排出する発電所があります。その発電用水を集めるダムは「雨畑ダム」と呼ばれ、既に貯水池のほとんどは土砂によって占拠されています。
 「サクラエビ」問題が報道された当時、地域一帯の大雨の際に海への放水口から黒く濁った水が排出され、同時に酷いにおいが一帯に漂った、との新聞記事を読みました。「サクラエビ」が、駿河湾最奥部周辺をその産卵場所とし、同時にその周囲が好漁場であったために、黒く濁った水によって産卵場所や漁場の多くが蹂躙されたのではないかと考えられます。
 黒く濁った水は、貯水池にあまりに多くの土砂が堆積していたために、増水の際に水流の底の砂や泥などの土砂が攪拌されて、そのまま導水管を通って海に排出されたのではないでしょうか。貯水式ダムの堰堤近くには砂や泥など小さな土砂が堆積し易いことは「砂防堰堤」の場合以上に甚だしいのです。また、発電所への取水口がダムの堰堤近くに建設される事も普通の事でしょう。
「サクラエビ」問題の場合では、大量の放流によって、ダム近くに堆積された毒を含む科学物質が駿河湾に流れ込んだのが原因である、との結論に至ったようですが、酷いにおいの黒い水についてはほとんど言及が無かったようで、残念に思っています。
 各地のダムで貯水池の土砂堆積が深刻化すれば、今後、それらのダムでも同じような現象が多く発生する可能性があります。

貯水式ダムの耐用年数或いはダムの撤去    
 極めて大量のコンクリートを使用したダムの耐用年数は極めて長いので、今ここで心配する必要はないのかも知れません。ですから、耐用年数の前に考えなければならないのは、やはり、ダムの機能が何時まで保てるのかにあるのでしょう。

 前の項目で記述した堆積土砂の問題は重要です。治水を目的にしたダムの場合では、この問題は致命的です。発電や利水を目的にしたダムであってもこの問題を放置する訳にはいきません。

 堆積土砂を排出する時、仮に、30年掛けて堆積させた土砂を、河川を通じて流下させるならば、10年や20年ほどで流下させることは出来ません。そんなことをすれば、ダムより下流への土砂堆積量が増大して川床が上昇し、洪水の可能性が増大するばかりです。30年で堆積した土砂は30年以上の年月を掛けて排出するべきです。60年とか120年とかの年月を掛けるべきかもしれません。仮に、30年掛けて堆積した土砂を30年掛けて排出した場合では、下流側に流下する土砂量は通常の流下土砂量の2倍の土砂がダムから排出されることになります。  
 河川やダムの状況はそれぞれのダムごと河川ごとで異なっています。河川による土砂流下方法だけでは土砂を排出できないダムも多くあるでしょう。そして、残念な事に、この問題を解決する優れた方法は未だ実現されていない様子なのです。  
 実際、有効な排砂、排出方法が無いまま、貯水池がほとんど土砂で埋まってしまった「貯水式ダム」は、この論述で記述した以外にも全国各地に幾つもあるようです。

 また、法律の問題もあります。地方公共団体或いは特定の企業であっても、自然の山河を独占的に長期間に亘って使用することは出来ないと思います。地域住民や国民の支持があっての「貯水式ダム」です。もし、「貯水式ダム」が地域住民に支持されなくて、ダムの廃止を求められたら、そのダムは撤去しなければなりません。このことは、問題が多く指摘される「貯水式ダム」であるほど切実であるのかもしれません。そして、おそらくそれらの事情を理由に、多くのダムで不都合な事実が隠蔽され、ダムの設置者や運営者や建設会社に都合の良い情報ばかりが喧伝されているのではないでしょうか。

  「ダムの撤去」の問題は今後早急に解決しなければならない問題になります。その時には、技術上の問題だけでなく経済的問題も考慮しなければなりません。そして、どれほど巨大なダムであっても永遠に存在し続けるダムなどあり得ないのですから、現在ある全てのダムでこの問題を考えておく必要があります。

 技術的問題を考えると、ダム本体の撤去にはそれほど大きな問題は生じないと考えられます。従来からの技術を活用すれば問題の解決は可能でしょう。しかし、貯水池に堆積した大量の土砂と、貯水池の周囲を巡り森林や林を無くした斜面の問題は容易ではありません。今までそのような問題に対応した事は無いのです。ダムを運用している時にいくら多くの土砂を排出したとしても、貯水地に堆積した全ての土砂を排出することは不可能だと思うのです。また、撤去の最中に前述の斜面が崩落する可能性も否定できません。さらに、ダム堰堤近くに堆積した多くの泥や砂やヘドロをどのように排除するのでしょうか。もちろん河川に流下させることは出来ません。  

 ですから、ダムの撤去には建設時と同じくらいの年数或いはそれ以上の年月を要する可能性も考えられます。また、それらの「貯水式ダム」は、その撤去の期間中は目的としていた機能はほとんど期待できない事も承知しておく必要があります。  

 経済的問題はもっと困難なのかも知れません。ダム撤去を決定する時には、上述の技術的問題を解決した上で、その時点と将来に亘るダムの効果と、撤去完了時までの維持管理費用及び撤去費用とを鑑みて、総合的に判断し決定する必要があります。ですから、建設時の費用に近しい或いはそれより多い費用が必要になる可能性も考えられます。様々な工事において、現在では、人的費用に関わる割合が過去よりもずっと大きいのです。
 そしてその時には、ダムの撤去費用を賄いきるだけの資金を用意しなければなりません。言い換えると、ダムの撤去が決まった時に、その技術が確立していて、その費用を負担する組織がある必要があります。  
 もしその時に、ダムの費用対効果を適切に判断出来なかったり、撤去を行う組織が無かったりすれば、ダムは放置されることになるでしょう。もちろん、それは治水状況に極めて困難な状況をもたらすだけでなく、本来不必要な費用の増大を招きます。 
 これらの問題では、「貯水式ダム」の規模が大きければ大きいほど困難も大きい事が予想されます。私が危惧しているのはそれらのことです。

                      

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