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「なぜ、上流の水の流れは透明なのか」


―河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える―

第3章「水の流れが透明な理由」と上流中流の治水的機能(3/4)−第2節

第2節 「自然の敷石」と「自然の石組」の形成

「自然の敷石」と「自然の石組」の形成
 「自然の敷石」と「自然の石組」が、特別規模が大きな増水の機会に破壊される事を記述しました。それでは「自然の敷石」と「自然の石組」はいつ形成されるのでしょうか。
  「自然の敷石」と「自然の石組」は、特別規模が大きな増水の後に発生する中小の規模の増水によって次第に形成されます。

 先に、特別に規模が大きい増水の後で発生した、大小の規模の増水と減水の時を考えてみます。
 そのような増水で水量が増加する過程では、流下して行く石や岩の大きさは小さな石や岩から始まって次第に大きくなります。言い換えると、その時々の水流の強さに耐えられない大きさの石や岩が次第に流下して行くのです。また、そのことにより、それぞれの石や岩の周囲にあった石や岩やその他の土砂も流下する機会が増加します。
 大きな石や岩が流下するのは水量が最大になった時です。そして、減水期になって最初に移動を止めるのも、水流で移動していた中の大きな石や岩です。
 流れの中で最初に止まった、或いは以前からその場にあった大きな石や岩が作り出す乱れた流れの中で、上流から移動して来る石や岩が止められたり、弾き出されたりします。流れが強いため小さな石や岩はその岩の近くに留まる事が出来ずに下流に流れて行きます。大きな岩の近くにとどまるのは大きな岩と同じ位の大きな石や岩であるか、それより少し小さな石や岩だと考えられます。私の実際の観察では、似通った大きさの大きな石や岩の幾つかが、酷く濁った強い流れの中を、自転車やスケートの集団競技のように、上流に向かって一列に並んでその場にとどまり、激しい波を引き起こしている光景を見た事があります。
 それぞれの石や岩は、その水量が次第に減少して行く流れの中で、それぞれの大きさと重さに相応しい場所に順次止まる、或いは止まり続けることになります。つまり、大きな石や岩が水の力によって水中に配置され、次に、その石や岩の隣に同じ大きさやそれよりも小さな石や岩が配置され、さらにその石や岩の隣でも同じ現象が生じます。これらの出来事はひとつの石や岩の周りだけで起きるわけでは無く、流れの中の全ての石や岩の周囲で起きている出来事です。その結果、石や岩の周りに石や岩が集まり、最後に、砂や小石がそれらの石や岩の間や周囲に留まります。
  こうして、水流中の土砂は大きな石や岩から順に少しずつ配置され堆積していくと考えられます。

  最初に、水流中での石や岩の堆積過程を推測しましたが、岸辺や河川敷の石や岩が流下していく場合では上述とは異なった過程も推測できます。  
 特別規模が大きな増水や規模の大きな増水では、水量が減少した岸辺や河川敷に、様々な大きさの土砂が不規則に入り混じった土砂堆積の丘が残されている事が多くあります。  
 そのような土砂堆積の丘の土砂を最初に流下させるのは降雨です。雨水が土や砂を時には小砂利をも水流の場所まで流下移動させます。  
 そして、大小の増水時の水流が土砂堆積の丘にまで及んで来るようになると、土砂堆積の中から石や岩が次第に流下して行くようになります。もちろん、この時でも小さな石や岩から順次流下して行くのです。土砂堆積の高さの全てに水流が及ばなくても、下側の土砂が崩壊して流失した土砂堆積の丘では、上部の土砂も次第に崩れ落ち流下して行くようになります。
 このようにして、石や岩やその他の土砂が不規則に堆積した土砂堆積の丘も次第に侵食されて行くのですが、全ての土砂が流下するのではありません。その時でも、水流が流下させる事の出来ない大きさの石や岩はその場所に残り続けます

 これら大中小の規模の増水時における、水流中と岸辺や河川敷での石や岩の流下と堆積の過程が、「自然の敷石」と「自然の石組」を次第に形成していく仕組みだと考えています。

「自然の敷石」と「自然の石組」と減水過程
 上述の過程で「自然の敷石」と「自然の石組」がすぐに形成され完成するかと言えば、そうではありません。それぞれの「自然の敷石」と「自然の石組」は全くの自然の言わば偶然が作り出す構造です。
 それぞれの場所で、水流の中でも流下すること無く残された大きさの石や岩が集まって、或いは、簡単には流下しない大きさの石や岩が近くに移動して来て、「自然の敷石」と「自然の石組」を形成します。大中小の増水の時に、元からあった、或いは流下して来た石や岩が、丁度うまく出会って「自然の敷石」や「自然の石組」が形成されます。そして、それらは似通った大きさの石や岩である事が多いのです。
 ですから、「自然の敷石」と「自然の石組」が形成された場所では、残された石や岩よりもはるかに多い量の土砂が流下していったと考えられます。

 当然、流下して来る或いは流下して行く石や岩の量によって「自然の敷石」と「自然の石組」の形成具合は大きく違ってきます。また、その形成には多くの機会を生み出す時間も必要となります。
 石や岩が流下して来る場合では、それぞれの場所の水流の強さに相応しい大きさの石や岩が、それぞれに大きさの順に供給されることは考えられません。それらはいつでも順不同に流下して来ます。
 その場所に相応しくない大きさの石や岩が流下して行く場合では、それらが丁度良い順番に流下して行くとは限りません。特別規模の大きな増水の後では、それらの土砂はそれぞれの場所ごとに不規則に堆積しているのです。
 石や岩が多い場所ほど「自然の敷石」と「自然の石組」を形成し易いことは間違いありませんが、それ以上のことは言えません。
 特別規模が大きな増水の後で水量が平水に戻ったとしても、多くの場合で「自然の敷石」と「自然の石組み」はほとんど形成されていません。その後、特別大きな増水ではない規模の増水が何度も発生することによって、ようやくそれらが少しずつ形成されていくことになります。それら幾度もの大中小の増水の機会に、その場所に相応しくない大きさの石や岩が流下して行き、元からあった相応しい大きさの石や岩が堆積を続け、或いは新たに流下して来て堆積します。
 「自然の敷石」と「自然の石組」の形成では、大きな石や岩から順番にそれぞれの大きさに相応しい場所にとどまる事が重要だと考えられますから、減水過程が穏やかで長期間に亘って続く必要があります。石や岩が流下する期間は長いほど良いことが考えられるのです。急激に減水してしまえば、それぞれの石や岩がそれぞれの大きさに相応しい場所にとどまる機会は確実に少なくなるのではないでしょうか。
 言い換えると、その期間が長く穏やかな減水過程であるほど「自然の敷石」と「自然の石組」がそれぞれの場所でより良く形成されると考えられます。そして、長く穏やかな減水過程であるほど、上流から中流までの広範囲でより多く「自然の敷石」と「自然の石組が形成されることも考えられます。このことは、「自然の敷石」と「自然の石組」の形成には幾度もの自然の増水と自然の減水の機会が必要であることと同じ意味を持っていると思います。

 減水過程が急激であったり、突然終わったりすれば「自然の石組」と「自然の敷石」の形成は順調には進行しません。 石や岩やその他の土砂がそれぞれにふさわしい場所に止まる事が出来ない状態は、土石流や土砂崩れの後の状態とそれほど違いません。その場合では、多くの石や岩や小さな土砂は不規則に堆積してしまいます。川底に石や岩が多くあっても、その周囲に砂や砂利が多く堆積している光景は、それらの状況であると考えられます。
 急激な減水により減水過程が穏やかに進行しなかった増水では、「自然の石組」も「自然の敷石」も充分には形成されませんから、自然に穏やかに減水した水流に比べて多くの土砂を流下させ続けます。 つまり、いつまでたっても不必要な土砂の流下が続き、濁りも発生し続ける事でしょう。

 先に、透明な流れの底には「自然の敷石」と「自然の石組」が形成されていることが多いと記述しましたが、透明な水流を見ることが出来る場所の全てに「自然の敷石」と「自然の石組」が形成されているとは言えません。上流から中流まで多くの場所にそれらが形成されている水流でも、全ての場所に形成されていることも考えにくいのです。
  川底に多くの石や岩があったとしても、それらの周囲に砂を多く見たり、砂や小砂利などの小さな土砂に埋まった石や岩を見る場所も多くあります。第1章で河川の濁りと土砂流下について説明しましたが、透明な流れであっても砂や小砂利が流下し続けている場所も多くあります。  
 それでも、一般的に言えば、「自然の敷石」と「自然の石組」は、石や岩が多い場所ほど出来易く、砂や小砂利が多くあり石や岩が少ない場所には形成され難いと考えられます。

 「自然の敷石」と「自然の石組」には、その形成と言う過程はありますが、完成と言う到達地点はありません。  
 石や岩の多い上流や中流で増水があれば、多くの場合で減水期間中に「自然の敷石」と「自然の石組」が形成されていきますが、その時の「自然の敷石」と「自然の石組」は決して完成したものではなく、常にその時々の増水の規模と期間によってその形成程度が違います。
 それは、それらの面積がどれだけ増加したかであり、次の増水の機会にどれほど流下し難くなっているかの違いと言えるでしょう。
  より多くの増水と減水の機会を経た後であれば、より破壊され難い「自然の敷石」と「自然の石組」になっている事は間違いの無いことです。
 普通の増水の時に濁りが発生しない状況はその例です。でも、そうであっても、それまでには無かったような大規模な増水が発生すれば、それらは破壊されてしまうことが多いのです。「自然の敷石」と「自然の石組」は、河川上流や中流の土砂がその流下の過程で見せる一時的な様相であると言えます。

「自然の敷石」と「自然の石組」の破壊と形成の実際
  「自然の敷石」と「自然の石組」を破壊するのは特別規模が大きな増水です。特別規模が大きな増水は流れの底や岸辺に出来た石や岩の秩序ある構造の多くを流し去ります。
  増水の規模がその時までに遭遇したことの無いほどに大きいから、「自然の敷石」と「自然の石組」を構成している石や岩が流下します。
 ですから、特別規模が大きな増水は、その規模が大きいほど「自然の敷石」と「自然の石組」を多く破壊します。増水量が多いほど、最大水量の時間が長いほど「自然の敷石」と「自然の石組」を多く破壊します。

 特別規模が大きな増水や、規模の大きな増水の後の上流や中流では、岸辺の土砂堆積の上に立っただけで足元から小石やその他の土砂が崩れることが多くあり、その上に乗っただけで落下する石や岩も多くあります。また、そのような増水の後も間もない水流を横断すれば、透明な流れであっても、足元から砂や砂利や小石が濁りを生じて流れることは珍しくありません。
 これらは、河川敷や岸辺や水流中に「自然の敷石」と「自然の石組」が形成されていないから生じる現象だと考えられます。
 そのような河川であっても「自然の敷石」と「自然の石組」が形成された後であれば、岸辺に立っても土砂が崩落することはなく、水流を横断しても流れの中に砂は無く、砂利や小石が濁りを生じて流下することもありません。
「自然の敷石」と「自然の石組」は、増水の機会に時々は水流が及ぶような河川敷にも形成されます。でも、水流の機会が少ない河川敷では「自然の敷石」と「自然の石組」が充分に形成されることは少ないのです。
 河川敷にも水流が及ぶような増水があった場合を考えてみると、河川敷や岸辺に「自然の敷石」や「自然の石組」の形成が無かったり、それらが不十分であったりする河川では、水流中に「自然の敷石」と「自然の石組」が形成されていたとしても、河川敷や岸辺から多くの土砂が流下して行きます。
 これらの事から、同じ規模の増水であっても、既に形成されていた「自然の敷石」と「自然の石組」の形成の程度によって土砂の流下量が異なることが考えられます。もちろん、「自然の敷石」と「自然の石組」がより多くより良く形成されていた水流であるほど、土砂の流下量は少ないと言えます。 特別に規模が大きな増水の機会であっても、最大水量の時間が短かった場合では、増水以前に形成されていた「自然の敷石」と「自然の石組」の幾つかが破壊されずに残っていることがあると考えられます。そこでは、それらが全く無い場所よりもより早く、多くの「自然の敷石」と「自然の石組」を形成して渓相を回復していくことでしょう。
 例えば、台風など大きな規模の増水が一年に二度に亘って発生した時に、二度目の降雨量が一度目よりも少なくても、二度目の土砂流下量の方が多かったりする場合があることも知られています。
 この現象は、一度目の増水で「自然の敷石」と「自然の石組」が多く破壊され、それらが回復しないまま二度目の増水が発生したので、不規則に堆積したままの土砂が下流に向かって大量に流下した結果であると考えられます。


              

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