HOME>河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える>第15章 貯水式ダムの放流を考える
2020/04/10、2017/07/21、一部訂正
2016年 3月20日
第15章「貯水式ダムの放流を考える」を新たに掲載しました。
ここで記述しているのは、石や岩が多い上流や中流についての事柄です。上流や中流であっても、石や岩が無いあるいは極めて少ない場所にはあてはまらない事柄です。
(イ)自然に形成される「自然の敷石」と「自然の石組」
河川では水の流下量が増えれば土砂の流下量も増えます。下流部では水量の増加に比例して土砂の流下量も増大するのが普通です。
でも、上流や中流では水の増加量に比例して土砂の流下量が増えるとは限りません。
上流や中流では、ある程度以上に水量が増加した時に限って土砂の流下量が増えるのが普通です。
自然状態の河川の上流や中流では、通常の流れは透明であり、少しの増水では濁りが発生しないことが多いのです。
つまり、その時には土砂は流下していないのです。
これらは、石や岩の多い河川上流や中流に形成されている「自然の敷石」と「自然の石組」が治水的効果を生じさせていることの現れです。
河川の上流や中流には、石や岩を始めとして様々な大きさの土砂が存在しています。 河川の上流や中流を流下する水は、それぞれの場所でそれぞれの水流が流下させることの出来る大きさの土砂に限って流下させています。 それぞれの場所の水流が流下させることの出来ない土砂はそれぞれの場所に残されています。
ですから、河川の上流や中流で普通の水量の時の透明な流れの底や岸辺には、それまでの水流でも流下することのなかった大きさの石や岩が数多く残されています。
同時に、それらの大きな石や岩の底や上流側や岸辺側には、それらの石や岩によって水流に晒されることの無くなった土砂も数多く残されています。
それぞれの場所に残された数多くの石や岩は、それぞれの川底や川岸に立体的な構造である「自然の敷石」や「自然の石組」を形成しています。
それらは、それぞれの場所に多くの石や岩があることによって自然に形成されています。
「自然の敷石」と「自然の石組」は、その文字から容易に推察できる、石や岩による構造を表現しています。
「自然の敷石」は流れの川底や岸辺に形成されて、それらの下にある土砂が流れに晒されて流下する事を防いでいます。丁度、都市に見られる歩道の敷石と同様の役割を果たしています。
歩道に見られるほど規則的な配列ではありませんが、多くの石や岩が川底を覆っている光景は河川上流や中流のどこでも見ることが出来ます。
「自然の石組」は流れの岸辺や川底に形成されて、それらの上流側或いは岸辺側の土砂が流れによって流下する事を防いでいます。
これは、石垣や石段等と似通った構造であり、並んだ石や岩がそれらの内側からの土砂の流失を防いでいます。
河川上流や中流では、近接した石や岩がその上流側や岸辺側の土砂を堰き止めている様子を容易に見つけることが出来ます。
河川上流や中流の流れに見る傾斜や段差の白い泡立ちや波は、そのほとんどが「自然の敷石」や「自然の石組」によるものです。
河川中流から上流に至る流れの傾斜のほとんどは「自然の敷石」や「自然の石組」があることによってそれが保たれています。
河川の流れの場所の標高が上流に至るほど急激に高くなるのは、上流に至るほど数多くの「自然の敷石」や「自然の石組」が形成されて、
同時に、それらを形成する石や岩の大きさも大きくなるからです。これらは、上流ほど石や岩が多くなり、その大きさも大きくなることの効果です。
上流に至るほど「自然の敷石」や「自然の石組」の数が多く、それらの石や岩も大きくなるので、流れの傾斜が急であるのにも拘らず、それらの場所からの土砂の流下が少なくなっています。
つまり、「自然の敷石」や「自然の石組」の数が多い上流ほど川底や河岸が侵食されることが少なくなっているのです。
河川上流や中流に見られる、淵や荒瀬や早瀬や浅瀬などの独特の風景も多くの「自然の敷石」や「自然の石組」によって形成されています。
(ロ)「自然の敷石」や「自然の石組」の治水的効果
「自然の敷石」や「自然の石組」は、構成している石や岩の大きさとその構造があるので容易には破壊されません。
「自然の敷石」と「自然の石組」の主要な構造は、それまでの水流によっても移動することの無かった石や岩によるものです。
ですから、それらの石や岩は通常の増水によって流下することがありません。
それらの石や岩を流下させるのは、それまでにはなかったほど大きな規模の増水に限ります。ここで言う増水の規模は、流下する水量の総量ではなくその時々の水流の強さを指します。
たとえば、その増水の期間が短かったとしても、その期間の間にそれまでに無かったような大量の水量がいちどきに流れれば、その時の水流はとても強くなります。
このような場合には、流下する水の総量が少なくても、「自然の敷石」や「自然の石組」の石や岩を流下させる可能性が大きくなります。
「自然の敷石」のより深い川底には、小さな土砂を含む大量の土砂が流下を妨げられて堆積しています。
また、「自然の石組」の上流側や岸辺側にも、小さな土砂を含む大量の土砂が下流への流下を妨げられて堆積しています。
河川の上流や中流では、それぞれの場所の「自然の敷石」や「自然の石組」が破壊されない限り、川底や川岸に堆積している土砂であっても流下しない仕組みがあります。
ですから、「自然の敷石」や「自然の石組」は、土砂の下流への流下を押し止めていると言えます。
また「自然の敷石」や「自然の石組」はその立体的な構造によって、水の流れを妨げ、あるいは遅滞させてもいます。
これら、「自然の敷石」と「自然の石組」による土砂や水流への影響は、治水的な効果であると考えて良いと思います。
上流や中流であっても上記のような治水効果が見られない流れを見ることがあります。上流や中流にも流れの三面をコンクリートで覆われた流れがあります。
そこでの水流は途中でとどまったりすることはありません。次の水たまりの場所までコンクリートの傾斜に従って真っ直ぐ流れ下るだけです。
コンクリートの上に石や岩がとどまり、あるいは砂などが堆積する機会があっても、少しの増水があれば、それらの土砂は直ぐに下流へと流れ下ってしまいます。
これらの流れには、水の流下を穏やかにしたり土砂の流下を押しとどめる効果がないことは明かです。
三面コンクリートの流れほどではないまでも、似通った状況の流れは自然状態の流れにもあります。
上流には、その流れの底を岩盤が覆い、あるいはその両岸を岸壁で囲まれた流れがあります。
それらの流れでは、その川底や岸辺に石や岩が止まり続けることが少なく、「自然の敷石」や「自然の石組」が多く形成されることはありません。
ですから、それらの流れでは急激な出水が生じることが多く、釣り人や登山者の遭難が伝えられることが時々あります。
「自然の敷石」や「自然の石組」が無かったり、少なかったりする流れでは、急激な増水と急激な減水が発生し易いのです。
それぞれの場所にある「自然の敷石」や「自然の石組」が生み出す治水的効果は、僅かなものに過ぎません。
でも、河川の上流や中流には極めて多くの石や岩があり、それらによって形成されている「自然の敷石」や「自然の石組」も極めて多くあります。
また、河川は上流に至るほど枝分かれして、どの河川にも数多くの支流や沢があるのが普通です。
ですから、それら上流と中流の「自然の敷石」や「自然の石組」の全体が保持している治水的効果は決して少なくないと言えます。
「自然の敷石」や「自然の石組」を破壊させる規模の大きな増水があっても、上流や中流から流下した大量の土砂の全てがそのまま下流部にまで流れて行くことはありません。
上流から流れ出した土砂の内の多くは上流部や中流部のどこかに堆積することが多いのです。土や砂の多くが下流や海へと流れ出したとしても、石や岩の多くは中流に止まることが普通です。
規模の大きな増水の後で、思いがけない程に大量の土砂が中流域に堆積している光景を見ることがあります。このような情景が幾たびか続けば、中流域の川床は上昇してしまいます。
規模の大きな増水があった時でも、やがて増水した水量は次第に減少します。大量の水によって下流へ向けて移動していた大きな石や岩も、水量が減少すればその移動を止めます。
大きな石や岩ほどには大きくない石や岩も次第にその移動を止めます。石や岩など大きくて重量のある土砂から順番にその移動を止めて、それぞれ流れ至った場所にとどまるでしょう。
その間も、それらより小さな土砂は流下し続けています。それらのうちの多くは先に止まった大きな石や岩の上を乗り越え、或いはその間をすり抜けて下流に下って行きます。
でも、あるものは先に止まった大きな石や岩により行く手を遮られて堰き止められます。また、あるものは先に止まった石や岩が作り出した穏やかな流れに沈殿します。
減水がさらに進めば、それまで流下していた様々な大きさの土砂も次第にその流下を止めます。最後まで流下し続けているのは小砂利や砂や土です。
こうして次第に形作られていくのが「自然の敷石」や「自然の石組」の構造だと考えられるのです。
つまり、規模の大きな増水によって「自然の敷石」や「自然の石組」が破壊されて、大量の土砂が流下した後に、
自然の減水過程があることによって「自然の敷石」や「自然の石組」が少しづつ形成されると考えられるのです。
ここで重要なことは、減水過程が徐々に進むことです。
大きな石や岩から少しづつその移動を止め、移動を止める土砂の大きさが次第に小さくなるから「自然の敷石」や「自然の石組」が形成されていきます。
減水過程が短期間で終了すれば、「自然の敷石」も「自然の石組」もその形成が困難になります。
それらの事は、土石流の後の光景に良く表れています。土石流は、比較的少ない水量でも大きな石や岩を含む大量の土砂をいちどきに流下させます。
土砂を流下させる水量は、急激に増加して急激に減少します。土石流の通り過ぎた後には、ささやかな水流しか残されていないことが多いのです。
そのような土石流の後では、様々な大きさの土砂が全く不規則なまま堆積している事が多いのです。
当然、「自然の敷石」や「自然の石組」はほとんど形成されていません。
(ニ)自然の減水と「自然の敷石」「自然の石組」の形成
規模の大きな増水によって大量の土砂が流下した後の上流や中流に「自然の敷石」や「自然の石組」が直ちに完成することはありません。
それは、規模の大きな増水の後の流れや土砂の様子からも窺い知る事が出来ます。
規模の大きな増水の後では「自然の敷石」や「自然の石組」の基本的かたちを見ることはあっても、きれいに並んだ多くの石や岩を見ることは出来ません。
流れの底には砂や砂利が多く、淵は砂や小砂利に埋まり、石や岩の周囲が深くなる様子も多くは見られません。
水の流れも一様であることが多く、流れの変化は少なくなっています。淵や荒瀬や瀬の姿も定かではないことも多いのです。
規模の大きな増水の前のような「自然の敷石」や「自然の石組」に回復するのには長い時間が必要です。
規模の大きな増水によって「自然の敷石」や「自然の石組」が破壊された後、再び、それらが同じように形成されるまでには年月が必要です。 それらを形成するのには、様々な大きさの土砂の中から小さな土砂だけを流下させる自然の水流が幾たびも必要です。 自然に発生している様々な降雨状況がそれらを可能にしています。
自然の河川には増水の機会が多くありますが、それらの増水はその規模が大きければ大きいほど、その発生の機会が少ないのが普通です。
つまり、降雨による増水はその大部分が小規模な増水であり、規模の大きな増水であるほどその発生機会が少ないのです。
これらの事情によって「自然の敷石」や「自然の石組」は、小規模な増水があるたびにその強度を増していきます。
小規模な増水が、その増水によって流下させることの出来る大きさの石や岩を流してしまえば、
そこに残るのは小規模な増水でも流れる事のない「自然の敷石」や「自然の石組」になります。
そのような現象を幾度も繰り返して次第に「自然の敷石」や「自然の石組」はより強固になります。
小規模な増水によっても容易に濁りが生じない河川は、つまり、容易に土砂を流下させない河川は、このような繰り返しによって形成されています。
これらの現象を別の言い方で表わすと、河川の上流や中流では通常の水量やそれよりも少し多いくらいの水量であったならば、それらの水量による土砂の流下はあまり発生しないと言うことです。
土石流や土砂崩れや大規模な増水の後あるいは工事の後など、特別の事情がない限り、通常の水量時に河川上流に濁りが生じることはありません。
また、上流部に優れた森林がある治山状況が良い河川では、増水の規模が大きくなっても容易に濁りを発生させません。つまり、土砂の流下が極めて少ないのです。
大規模な増水が頻繁に発生することはありません。多くの河川の場合で、十数年に一度とか、数十年に一度とかの頻度でしか発生していないと思われます。
でも、時には規模の大きな増水が短い期間に続けて発生することもあります。
.このような場合では、最初の増水によって破壊された「自然の敷石」や「自然の石組」が回復しないうちに、
次の規模の大きな増水が発生しますから「自然の敷石」や「自然の石組」は回復するどころか、より破壊されてしまいます。
このような状況は大きな台風が続けて襲った場合などに発生しています。
上述した(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の事柄を考えれば、現在の貯水式ダムで行われている放流方法が間違えている事が明らかだと言えます。
現在の放流方法は「自然の敷石」や「自然の石組」を破壊し、なおかつそれらの形成も妨げています。 つまり、貯水式ダムでの現在の放流方法は、自然が元々持っている自然の治水作用を破壊しています。
(第一の問題)貯水式ダムの放流では単位時間当たりの流下量が多くなりすぎています
(イ)貯水式ダムの放流と「自然の敷石」「自然の石組」
上流部にある貯水式ダム下流の状況は多くの場合で、規模が大きな増水が短期間に続けて発生している状況に似通っています。
貯水式ダムによる放流があった後にダムの下流部に入ると、規模の大きな増水の後の様子と同じような光景を見ることが多いのです。
多くの淵が土砂に埋まり、河川敷は平坦に広がり、少ない水量で変化のない流れの底には砂や小砂利が溜まっています。
淵や瀬の場所が移動して以前とは全く異なった光景に変わっている事さえあります。
このような状況はダムの放流がある度に繰り返されています。
貯水式ダムの集水流域に含まれない区域に降った雨や小さな沢の水が流下して、それらの流れを徐々に回復し、「自然の敷石」や「自然の石組」を少しづつ形成していったとしても、
再び、ダムの放流による「自然の敷石」や「自然の石組」の破壊が繰り返されます。
貯水式ダムの下流の流れや河川敷では、小石や砂利や砂など小さな土砂ばかりが目立つことが多く、「自然の敷石」や「自然の石組」が数多くある状況を見ることは少ないのです。
淵や荒瀬が少なく変化の少ない流れが続く光景を見ることが多くあります。そしてそのような傾向は年ごとに酷くなっています。
ですから、ダムの下流の谷間では侵食が急速に進み、それより下流側には大量の土砂が堆積しています。
つまり、貯水式ダムはその放流の度に、「自然の敷石」や「自然の石組」を破壊するほど大量の水量を流下させている可能性が大きいのです。
この場合の大量の水とは、放流する水の総量ではなく、その時々の水量の多さを表わしています。言い換えると、その時々の水位の高低を表現していると考えると分かり易いと言えます。
(第二の問題)貯水式ダムの急激な放流がその下流に不必要な土石流を発生させています
(イ)通常の土石流の場合
土石流では、大きな石や岩を含む大量の土砂がいちどきに流下します。規模の大きな増水であっても移動しないような巨大な岩石が移動することも珍しくありません。
土石流が流下した後に残されるのは、全く不規則に堆積した大量の土砂です。
規模の大きな増水の場合に比べて少ない水量であっても土石流は発生しています。 通常の規模の大きな増水の場合では時間を掛けて水量が増大するのに比べて、土石流では極めて短時間の内に水量が増大することが多いようです。 規模の大きな増水が終わるのには長い時間が必要です。土石流は発生の時と同様に短い時間で終了します。
規模の大きな増水の場合には「自然の敷石」や「自然の石組」を破壊して、増水のあった流域一帯の土砂を多く下流部へと移動させます。 土石流の場合では、多くの「自然の敷石」や「自然の石組」を破壊しますが、規模の大きな増水に比べて、土砂を下流部へと移動させる区域はそれほど広くはありません。 移動させる土砂は、土石流の発生した谷とそれに続く下流部に限られることが多く、土石流のあった場所の土砂だけに限られます。
(ロ)第11章の後半に記述した土石流
第11章では、河川上流で発生する土石流の様子を二つの例に分けて説明しました。
前半では、普通の土石流が河川にどのような影響を及ぼしているかを説明しました。そして、その土石流の状況を、ブルトーザーが下流に向かって土砂を押し出している状況に例えています。
第11章の後半では、貯水式ダムの放流によってダムの下流側に土石流が発生している状況を説明しています。
その状況は、トラクターが下流に向かってそれぞれの場所の土砂を撹拌している状況に例えています。
第11章の前半と後半で記述している土石流の跡は、いずれも土石流の跡の特徴を明確に示しています。
どちらの場合でも、大きな石や岩を含む様々な大きさの土砂が全く不規則に堆積しています。それらは、通常の増水の後に残される土砂堆積の状況とは明らかに異なった様相です。
それらの土石流がどのようなものであるのかは、第11章をご覧になれば理解して頂けると思います。第11章では、文章だけでなく幾つかの写真も掲載しています。
以下に説明するのは、第11章の後半で説明した貯水式ダムによる土石流の問題です。
上流にある貯水式ダムの下流側では、ダム近くの川床に著しい侵食を発生させていることが知られています。
これは、ダムの放流口と下流側の流れとの間に大きな落差があることに起因した侵食の問題であると考えられます。
言うなれば、自然の流れに滝壺が出来ることと似通った問題であると考えられ、そのほとんどはダム直下の問題なのではないでしょうか。
しかし、ここで私が問題とするのは、それとは別の問題です。
上述の貯水式ダム直下での問題は、ダムから下流に離れればその現象が無くなるものです。
それに対して、第11章の後半に記述した土石流は、ダムより4Kmほど離れた下流での現象であり、その原因であると考えられるダムもそれほど大きなものではありません。
また、そのダムは、上流からの流下土砂の堆積によって本来の貯水予定水量よりもずっと少ない水量しか貯水出来ないのです。
そのダムの概要は以下の通りです。堤高約34.8m、堤頂長約58.8m、総貯水容量987千m3、有効貯水容量552千m3。
ですが、その貯水池には既に大量の土砂が堆積しているので、実際の貯水容量は僅かなものです。
このようなダムの放流によって何故にそのような土石流が発生しているのか。容易には解決できない問題でしたが、ただ一つ思い至った考え方がありました。それが以下の考え方です。
この考え方は全くの推論です。その発生の後に残された土砂堆積や様々な状況から推察したものであり、それが発生している実際の状況を見たわけではありません。
様々な思考の末にようやく気が付いた考え方であり、個人的にその可能性が大きいと考えているものです。
ですから、現場で仕事に携わる多くの方々によってこの考え方が実際に立証される事を願っています。
(ハ)第11章後半の土石流はどのようにして発生しているのか
第11章後半での土石流は、河床の形状や通常時の水量など、特定の条件がそろっているときに、急速な放流を行うことによって発生している特別な土石流であると考えられます。
その土石流は、河床を流れる水流と河床を離れた上層を流れる水流とでは、その流下速度が異なっている事に起因するのではないかと考えられます。
河川の流れの中では、河床近くを流れる水流はその速さが遅く、河床を離れた上の層を流れる水流のほうが流れる速度が早いのが普通です。 河床を形成している土砂がある事によって、河床では水の流下が妨げられているのです。河川上流や中流には多くの石や岩がありますから、下流部に比べてその傾向も強いことでしょう。
仮に、流下水量のない貯水式ダム下流にダムからの放流があったとします。
貯水式ダムの放流はゲートの開閉によることがほとんどですから、その水量はゲートの開放に従って少しづつその量を増加させます。
ゲートから解放されて最初に流下し始めた水は、河床の土砂に行く手を阻まれることが多く、その流下速度はいつまでたっても早くなりません。
後からゲートを離れた水は先に流れた水の上を流れますから、最初に流れ始めた水よりもその流下速度が速くなります。
この現象は、ダムの放流開始後の時間の経過とともに継続して、その現象の効果を次第に大きくします。
やがて、後から増大して放流された水は最初に流下し始めた水に追いつきます。
つまり、少しづつ放流量が増加していったとしても、下流側のいずれかの地点で或いは放流開始後いずれかの時間後に、
その時点での放流水量に近しい水量の水流が、水の無い河川敷に突然流れ始めることになります。
下流へと流れる水流の先端は、海岸で岸辺に打ち寄せる波と同じような形状になることが多いのではないかとも考えられます。
水流の先端はその水量の分だけ立ち上がり下流に向かって崩れます。先端が崩れても上流からは引き続き大量の水量が供給されています。
立ち上がり崩れる波は回転して崩れる姿のまま、流れのない河川敷を下流に向かって進むのではないかと考えられます。
海岸での波と同ように立ち上がり回転し崩れる大量の水が、河床の土砂の秩序を一気に破壊するのではないでしょうか。
河床の土砂の秩序を破壊した後には多くの水量による流れが続いています。破壊された「自然の敷石」や「自然の石組」の土砂は下流に向かって流れる事でしょう。
もちろん、その時の波の高さやその影響力は、放流水量が多いほど大きいと考えらえます。
ずっと以前のことですが、どこか外国の洪水の様子を撮影した映像で、 川幅一杯に広がって流れる濁った水のその上を、さらに増大した水が海岸と同じような形の波と一緒に横に広がって流れ下る光景を見たことがあります。 昔の事です。どこのどのような洪水であったのかは全く分かりません。
(ニ)特別な土石流を発生させる条件
特別な土石流は、後から追いついた大量の水が供給され続ける限り続きます。
つまり、河床の土砂によって流下速度が遅くなっている水の上に、後からの大量の水が覆いかぶさる状態が続く限り、特別な土石流は流下し続けます。
放流水量が減少すれば、覆いかぶさる水量が減少するので特別な土石流状態は次第に解消します。先端の膨れ上がった水量は次第にその高さを減じて普通の流れに戻ります。
放流が終われば水位はさらに低下して、長い時間を掛けてもとの河川敷状態に戻ります。
ただし、この時には河床の様子は以前とは激変しています。「自然の敷石」や「自然の石組」が全く破壊されているからです。
特別な土石流が流れ下る途中で、水量の多い支流に出会ったり本流に流れ込んだりする場合でも、特別な土石流状態は解消することが多いでしょう。
水流が合流した後の流れには、急激な増水による水流の段差が生じることがあるかもしれません。しかし、下流に流れ下ればその段差も解消すると考えられます。
水流が合流した後の流れでは、川底の土砂の秩序を破壊する可能性は少なくなるでしょう。これは、合流するそれぞれの水量によって異なることが予想されます。
特別な土石流を発生させる条件の第一は、放流水量を増大させる速度の問題です。
放流水量が増大する速度が早いほど特別な土石流は発生し易くなります。また、発生する場所も貯水式ダムに近い場所になる事でしょう。
放流を始める貯水式ダム下流側の水量が少ないほど特別な土石流は発生し易くなります。下流側に水流が無ければ最も発生しやすい状況になるでしょう。
また、ダム下流側の河川敷の形状によっても、特別な土石流が発生する可能性が異なる事が考えられます。
放流する水量にもよりますが、水流が流下する場所の傾斜が少ないほど特別な土石流は発生し易くなることが考えられます。
さらには、河川の横断面がV型やU字型でなく凹字型であるほど、特別な土石流は発生し易いのです。
つまり、放流初期に流下させた水がその流れを滞らせる程度が大きいほど、後から放流された水が追いつき易くなるのではないでしょうか。
(ホ)第11章後半の貯水式ダムの場合とその他の貯水式ダムの場合
第11章の後半の記述と、上述の説明から、第11章後半の特別な土石流の状況はほとんど解明できたのではないかと思います。 ここで、第11章後半の貯水式ダムの場合ではない、その他の貯水式ダムの場合についても考えてみます。
第11章後半の特別な土石流では、貯水式ダムの放流が急速に始まり、また早々と終了しました。ですから、土石流の跡が下流の随所に残されました。
有効貯水容量が比較的少なく、実際の貯水水量も少ないので、大量の放流を長時間続けることが出来なかったのでしょう。
このことが、渓流を観察する私に幸いしました。貯水水量がもっと多いダムであったならば特別な土石流の跡に気付くことも無かったのです
河川上流や中流の流れや河川敷では、その河川で最も最近に発生した最大の増水の跡と、その後に続いた中小の増水の跡を観察することが出来ます。
でも、最も最近の最大の増水よりも以前にあった小規模な増水の跡は残されていません。それらの時期の状況を知ることは極めて困難です。
河川全体の様々な様子から推察するしか方法がありません。
それぞれの貯水式ダムの下流で特別な土石流が発生していたとしても、それを明らかにする証拠は残っていない事が普通だと考えられます。
特別な土石流の後から普通の流れが続けば、土石流の跡は残されることが無く、ただの増水の跡が残るに過ぎません。
これらのことを考えると、多くの貯水式ダムの下流部では認知されていない土石流が発生している可能性があると考えられるのです。
第11章後半の貯水式ダムで特別な土石流が発生していたのは、ダムの管理者を含む多くのダム関係者が、特別な土石流の存在を知らなかったことが原因なのだと思うのです。
もしも、その様な現象が知られていれば、土石流を発生させて多くの土砂を不必要に流下させる放流方法は、早々と改善されていたことでしょう。
同じ水系に幾つかの貯水式ダムを建設した時に、下流部側の貯水式ダムでは想定以上に早く大量の土砂が堆積することが多いのではないでしょうか。
単独の貯水式ダムの場合であっても、それより下流の中流部に大量の土砂が堆積する傾向があります。
これらの現象は、貯水式ダムの建設により上流部からの土砂の流下量が減少している事を考えれば全く不思議な現象です。
これらの現象の全てが、誤ったダムの放流方法に起因すると考えているのではありませんが、それらの原因の重要な要素であることは間違いないでしょう。
(第三の問題)貯水式ダムの放流は急激に終了しています。
(イ)急速に減水する貯水式ダムの放流水
河川を流下する水は、流域に降った雨によってもたらされています。降雨による水の全てがそのまま河川に流れ込むことは少なく、 そのほとんどは植物や枯れ落ちた植物の残骸やそれぞれの地面を経由した後に河川に流れ込みます。
また、一旦それぞれの土地にしみ込んだ後に地下水となって再び地表に現れ河川に流れ込む水もあります。 ですから、降雨があった時でも、その水量の全てが直ちに河川水になることはありません。
降雨が無い場合でも同様の効果が見られます。降雨が無い時でも河川水が流れ続けているのは普通の事です。
降雨が無い期間が長く続いた時に、水の流れが減少したとしても全く枯渇してしまう事は少ないのです。
これらの状況は山地を流れる河川ほどその傾向がはっきりしています。降雨時でも降雨が長期間無いときでも、流域の林や森林が豊かであるほどそれらの効果が強くなります。
その効果の内のある程度の部分は上述の「自然の敷石」や「自然の石組」によるものだと考えられます。
自然の河川では降雨時の水量の変化も、あるいは降雨が無いときの水量の変化も穏やかであるのが普通です。
ですから、規模の大きな増水が通常の水量に戻るのには長い時間が掛かります。そして、増水の規模が大きければ大きいほど通常の水量に戻る期間が長かったのです。
つまり、自然の河川であれば、流れる水が急激に減少したり突然に無くなったりすることはありません。しかし、貯水式ダムの建設によってこれらの事情が変わってしまいました。
貯水式ダムの放流の後にその流れが徐々に減少することはそれほど多くはないと考えています。
貯水式ダムでは、その放流水量が急激に増大するだけでなくその減水過程も急激な場合が多いことは 、河川敷に残された土砂や流木の散乱状況などからも窺い知ることが出来ます。
急激な減水は「自然の敷石」と「自然の石組」の形成を妨げています。
多くの場合で、ダムの放流水は急激に減少したり、突然に無くなってしまうのでしょう。
あるダムの放水口で、放流水が急激に減少した後の河川敷の水たまりに、普通の釣り方では容易に釣ることが出来ない程に大きなアマゴが死んでいるのを見つけたことがあります。
急激に水量が減少してしまったので、そのアマゴは水の深い場所に逃げることができなかったのでしょう。
ある貯水式ダムの中流部では、ダム放流の後に川底に大量の泥が堆積するので、アユを始めとする様々な魚類の生息数が減少してしまった、との記述を書物で読んだことがあります。
自然の河川では、規模の大きな増水の時でも、その水量が減少する過程でその濁りは徐々に薄れていきます。 自然の増水の場合には、平水に戻る頃には流れの濁りが少なくなっている事が多いのです。
そして、規模の大きな増水の場合であっても、その後に普通の減水が続いて、川底に堆積した泥も下流に流れ去って行くのが普通です。
貯水式ダムの放流では、茶色の濁りが消えない内にその放流を止める事も多いのだと考えられます。
貯水式ダムの管理では、その貯水水量の維持を第一の優先事項として考えられているのだと思います。
貯水式ダムに貯水する水量が多く確保されているほどダムは安定して利用できていることになるのでしょう。
ダムの放流をどのように行うかは二次的な問題として考えられているのではないでしょうか。
将来発生する降雨によって、予測される貯水水量があふれる程に多くなり過ぎないように、ダムは放流しているのだと思います。
そして、放流する必要が無くなれば放流を止めます。もちろん、それらの放流によって河川が荒廃する事など、指摘する人は誰もいなかったことでしょう。
上述した(1)の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)では、「自然の敷石」と「自然の石組」が通常の水量とその穏やかな減水過程で形成されることを記述しています。
貯水式ダムの放流水の急激な減少が「自然の敷石」と「自然の石組」の形成を阻害している事は明らかです。
また、放流水の急激な減少が生物の生息環境をも悪化させている事も明らかだと言えます。
(3)上述(2)の(第ニの問題)から推察される幾つかの事柄
(イ)鉄砲流し
以前の日本には鉄砲流しと呼ばれる、河川の流れを利用した木材の輸送方法がありました。山地の木材を、流れを利用して流下させる方法として筏流しが知られています。
鉄砲流しは、筏流しよりも水量が少ない上流で1本1本の木材をいちどきに下流へと流す方法です。
鉄砲流しや通常の一本流しによって下流まで流された木材が、水量の多い場所で幾つかまとめられて筏にして流されるのが筏流しです。
鉄砲流しでは上流の何処かに多くの木材を組んで小規模な堰を作ります。一度見たその写真にはそれを建造している人達も写っていました。
その写真からの判断では、高さが4〜6m、幅が15〜20m位なものでした。建設と同じくしてその上流側に伐採した木材を集めます。もちろん堰堤の上流側には大量の水が貯水されます。
多くの木材が集められ適度な水量が貯水された後、木材で作ったその堰を一気に破壊します。いちどきに流れ出る大量の水と共に木材は下流に下って行きます。
私が知った限りでは、それ以上の説明はありませんでした。
その説明内容は理解出来たものの、腑に落ちないことがありました。果たしてそれほどの水量で大量の木材を流し切ることが出来るのだろうか。
或いは、それほどの手数をかけて採算が取れるのだろうか。 人件費が極めて安い時代であっても、経済活動にその採算性が要求されるは当然のことです。
しかし、第11章の特別な土石流の事実を知ることによって、それらの疑問はほとんど解消しました。
鉄砲流しの増水は、第11章後半の土石流の場合と全く同じ状況であると考えられるのです。どちらも急激に増水して急激に減水します。
鉄砲流しの後には土石流によって荒れた河川敷が残されたのに違いありません。それは、平坦で変化の少ない流れです。
岸辺や水中に多くの石や岩が露出している普通の渓流よりも、木材は流下させ易くなっているはずです。通常の水量や少しの増水の際でも木材を容易に流下させることが出来たでしょう。
鉄砲流しの目的は、いちどきに大量の木材を流すことだけでなく、その後も木材を流下させ易い流れを作り出すことにもあったのではないでしょうか。
大井川上流には鉄砲流しの堰の跡と伝えられる場所が2か所ほどあります。その現場に行ったことはありませんが、同じ流れの下流部を見たことがあります。
決して大きいとは言えない沢であり、その傾斜も穏やかで、谷も比較的開けています。
鉄砲流しは、数年に一度くらいの割合で同じ場所で繰り返し行われていた方法であったと考えられます。
そのことによって、木材を流し易い状況を保っていたのではないかと思うのです。
大井川上流以外でも鉄砲流しは各地にあったはずです。でも、全ての河川の上流部で行われていたことでは無かったでしょう。
鉄砲流しが可能な河川よりも、それが出来ない河川の方がずっと多かったのだと思います。
それぞれの鉄砲流しがどのような条件の元で行われていたのかが明らかになれば、それらの事情も明確になる事でしょう。
以上「鉄砲流し」に関する考えは全くの推論ですが、この推論はその対象をさらに広げる事ができます 。
(ロ)都市部での急激な増水と魚類
第11章の特別な土石流も上述の鉄砲流しも、いずれも急激な増水がそれまでにあった河床の構造を破壊しています。
両者とも河川上流部での現象であり、共に、川床や河川敷にある「自然の敷石」や「 自然の石組」を破壊します。
でも、急激な増水が破壊するのは、石や岩の「自然の敷石」や「自然の石組」の場合だけではないのではないかと思えるのです。
上流でなくても、急激な増水が河川の河床の構造を破壊している現象があると考えられます。
都市部の河川では、夕立など急な降雨により一時的に急激な水量の増加があった時に、河川に生息していた魚類が大量に死亡する現象が発生することがあります。 この現象は、魚釣りを趣味とする私から見て極めて奇妙な出来事です。
魚類は、小量の降雨の際にはその活性が上がり餌の食いが良くなるのが普通ですから、釣り人が少しの雨でも釣りを続けることは珍しくありません。
小規模な降雨の時に魚の活性が上がるのは、降雨によって水中の酸素の量が増加するからだと言われています。
降雨量が増えて茶色の水が流れるようになると、水位が上昇して魚の居場所も変わってきますから、魚釣りは困難になります。ほとんどの釣り人は釣りを続けるのを諦めるでしょう。
昔から河川を生息区域としていた魚類は、長期間に亘る茶色の増水であってもその環境を生き延びることが出来ます。
イワナやヤマメやアマゴなどの渓流魚は、茶色に濁った水の中でもひと月程度は問題なく生存できるようです。
アユは茶色く濁った水が嫌いです。濁りの薄い支流に避難したり、濁りの弱い場所がなければ海まで戻ります。
水が濁っていることが多い下流や中流に生息する魚類は濁りの中でも生き延びています。それぞれの魚の詳細は分かりませんが、多くの魚類が何らかの方法で生き延びています。
ですから、規模の大きな増水の後でも、その流れが元に戻れば、やがて多くの魚類が流れに戻ってきます。
これらの事を考えれば、短時間の増水によって多くの魚類が死亡するのは、特別な事情があるからに違いないと思えるのです。
都市部の河川では、急激な増水でない時にも大量の魚類が死亡することがあります。夏の渇水期で水量が減少して水温が上昇した時にも大量の魚が死亡します。
これは、水温の上昇により水中の酸素が減少するから、魚が酸素不足になり死亡するものです。
水中に溶解可能な酸素の量は水温によって異なります。水温が低いほど水中の酸素は多くなり、水温が高ければ水中の酸素量は減少します。ですから、魚が死亡するのです。
前述の急激な増水による大量の魚類の死亡も、水中の酸素不足によるものではないでしょうか。
平野部の農業地区に混在した住宅地のドブ浚いを経験した事があります。農地のための用水であると同時に一部は下水道も兼ねている水路で、全てコンクリートのU字溝の中を流れていました。
その周囲が農村だった頃からの習わしのようで、地区住民総出の年に一度の季節行事でした。
そのドブ浚いの時に印象的だったことがありました。水路の底には二つの種類の異なった泥があったのです。
一つは透明な水の底に見える茶色や茶褐色の泥です。もう一つは、茶色の泥をはがした時に茶色の泥の下から出てくる黒い或いは青黒い泥です。
この黒い或いは青黒い泥を水路の脇に浚い出すと、強烈なにおいを発生するのです。茶色の泥にも匂いはありましたが、黒や青黒い泥ほどの匂いではありませんでした。
河川下流域の底には、小さな砂や泥が堆積している事が普通で、それらの土砂中に存在する大量で様々な微生物が、水中の酸素を消費して水中や土砂中の有機物を無機物に分解しています。
通常の流水状態や通常の増水時であれば、砂や泥の表面近くに存在する微生物だけが水中の酸素を消費して有機物の分解を行っているのです。
でも、何らかの力によって川底の底が撹拌されれば、底の深くに存在していた微生物もいっぺんに水中に巻き上げられて、
有機物を分解する作用が急速に増大して、 大量の酸素を消費してしまうのではないでしょうか。
都市部で発生する急激な増水も、上流部で発生する特別な土石流や鉄砲水と同じく、河床の構造を破壊しているのではないでしょうか。
上流の特別な土石流や鉄砲水が破壊するのは、石や岩からなる「自然の敷石」や「自然の石組」です。 水量が多くその勢いも強いから石や岩も移動させるのです。
都市部で発生する急激な増水は、上流部のそれに比べて水量の増加の程度は少ないでしょう。でも、砂や泥からなる都市部の河川の河床の構造を破壊するのは容易なのではないでしょうか。
都市部の急激な増水は、深い川底にある黒や青黒い泥をもかき回して水中に拡散するのでしょう。
そして、そのような酸素の少ない水の流れは次第に下流へと流れて行きます。その結果、流れの中の酸素は急激に消費されて水中の酸素量は急速に減少します。
水中の酸素量が少なくなった魚は、避難移動する間もなく死亡することでしょう。
(ハ)河口やそれに続く湾や湖沼で起きていること
都市部の河川で河川水の急激な増加が、通常の増水では生じない程に川底の土砂を撹拌して、酸素量の少ない水を生じさせている可能性について記述しました。
このような状況は、コンクリートやアスファルトに覆われた都市部だけで発生しているのではないと考えられるのです。
川底が小さな砂や泥に覆われている河川は数多くあることでしょう。 それらの全ての場所において、上述と同様な出来事が発生しているとは思えませんが、多くの地域でその可能性があると考えられるのです。
河口やそれに続く湾や湖沼で生物の生育環境が悪化している例は、日本中に多くあります。
それらの河口や湾や湖沼では、以前には、何の問題も無く多くの生物が生息して豊かな漁業資源を誇っていたのです。しかし、近年に至るほどそれらの場所では多くの生物が減少しています。
専門家や学者がその原因を調査していますが、いまだにその原因の全てが明らかにされていません。ですから、ほとんどの地域でそれらの傾向は改善さないまま状況は悪化するばかりです。
河川の下流部に急激な増水をもたらす条件は近年に至るほど増加しています。
上流部にある貯水式ダムがその下流に急激な増水と急激な減水をもたらしている事は既に記述したとおりです。
河川の流域の広さや流程の長さや勾配の程度や流下水量等はそれぞれの河川ごとに異なります。
ですから、上流部の貯水式ダムであっても、その影響が直接下流部にまで及んでいる場所もあることでしょう 。
さらに、中流部や河口近くの貯水式ダムであれば、急激な増水の影響は必ずあるのに違いないのです
貯水式のダムばかりではありません。上流や中流に無数に設置された砂防ダムや治山ダムやコンクリー ト護岸が急激な増水と急激な減水を生じさせています。
また、それらの構造物は普通の増水であっても 、砂や泥などの小さな土砂を以前よりずっと多く下流に流下させ続けています。
それぞれの個々の構造物のそれらの影響は僅かなものです。しかし、それらの構造物はあまりに多く建設され過ぎました。
日本中の河川の上流や中流の至る所にそれらは設置されているのです。それらを見ない河川はありません。
また、山から流れ出る流程の短い河川が大きな河川の下流部やその近くで合流している事もあります。
これらのことが、急激な増水と急激な減水を生じさせています。そして、砂や泥など小さな土砂が過度に流下する現象も生じさせています。
急激な増水と急激な減水は、都市部ではない平野部でも発生しています。
農業がおこなわれる平野部でも、中小の河川のほとんどはコンクリートに囲まれ多くが直線化されています。それより小さな水路であってもそれらの事情は同じです。
昔はきれいな水が流れる小川だった流れも、U字溝によって三面コンクリートに変えられてしまいました。
水路の幅も水の流れの幅もほとんど一定です。水の流れはどこでも同じような傾斜を流れます。
三面コンクリートの水路では、流れがドブ川のように停滞するか、あるいはコンクリートの底がむき出しになっている事も多いのです。
それらの水路では、少し大きな増水があれば、その底に溜まっていた土砂も一気に下流に流れ出します。
U字溝の水路も、急激な増水と急激な減水を発生させています。増水によってそれらの水路から酸素が少ない水と泥が流下する機会が多くなっています。
以前でしたら、水路の幅が同じであったとしても、実際の水の流れの幅はそれぞれの場所ごとに異なっていることが多かったのです。
流れの速さも深さもそれぞれの場所ごとに異なっていました。流れが全く停滞することは少なかったのです。
それらの水路には多くの生物が生息して、増水があった時でもそれぞれに避難する場所もあったはずです。現在の平野部ではそのような流れは極めてまれです。
農業が行われている平野部であっても、そこを流れる河川や水路は都市部を流れる河川や水路と同じになっています。
河口やそれに続く湾や湖沼で生物の生育環境が悪化しているのは、それらの区域へ流れ込む水が急激な増水と急激な減水の機会を増加させているからではないでしょうか。 急激な増水と急激な減水の機会が増加している事は間違いのないことです。 そのような時に、流れの底の土砂が撹拌されて水中の酸素が不足したり、酸素が欠乏した水と土砂が流れ込んだり、あるいは大量の砂や泥が急激に流れ込んだりするので、 生物の生息環境が悪化しているのだと考えられるのです。
日本では、全ての河川や水路が急激な増水と急激な減水の機会を増加させています。そのことが上流から下流に至る全ての地域での治水の困難さを増大させています。そして同時に、全ての地域の生物の生息環境を悪化させていると考えられます。
なお、河川の急激な増水と急激な減水が各地の砂浜を荒廃させている事については、「安倍川河口から続く静岡の砂礫浜海岸(その1、2、3)」で記述しています。
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