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「なぜ、上流の水の流れは透明なのか」


―河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える―


   第4章「砂防堰堤」(1/4)−第1節
2024/05/25
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一部訂正

第1節 様々な「砂防堰堤」とその問題点

様々な「砂防堰堤」とその名称  
 河川の上流には、上流側からの過度の土砂の流下を防ぐことを目的にした「砂防堰堤」が数多く建設されています。それら上流で見る砂防堰堤の多くは、その上端の高さを水平にして建設されています。 堰堤が山腹に接する両岸で上端が高くなっている事もありますが、その距離は僅かですから、堰堤上端はほとんど水平と言っても良いと思います。
 それらの堰堤では、幅がある滝の状態になった水流が常に上端から流れ落ち、堰堤の上流側には、大量の土砂がほとんど水平に堆積しています。増水時になれば、堰堤の上端から水流と共に土砂が流れ落ちています。この章は、それら上端がほとんど水平である砂防堰堤についての記載です。
 最近では、堰堤中央部の上端から縦にスリット(隙間)が設けられ、上端が必ずしも全くの水平ではない砂防堰堤も建設されています。また、幅を広げたスリットに鋼鉄製の立体的な柵を設置した堰堤を見ることもあります。でも、多くの河川で最も多く見られるのは上端が水平である従来からの砂防堰堤ですから、先ず、それらについて考察します。そして、その対比として上端が水平とは限らない砂防堰堤についても記述します。  

 「砂防堰堤」の名前をその大きさによって変えたり、或いは、建設する役所によって、ほぼ同じ構造を持つ「堰堤」を他の名前で呼ぶこともありますが、ここでは一般的に良く知られた「砂防堰堤」をその名称として一括して使用します。
 砂防堰堤は多くの場合で常に水流がある場所に建設されているのですが、場所によっては降雨時にしか水流が発生しない小さな沢や崩壊地に建設されていることもあります。それらは、常に水流がある場所の堰堤とはその目的や機能が異なると考えられますので、通常の砂防堰堤とは区別して考察し、別のファイルでの掲載にしました。

「砂防堰堤」の役割
 今から45年以上前、私が渓流釣りを始めた頃には砂防堰堤の数は少なかったのです。その頃、私が釣りに行く渓流は、休日に日帰りが出来て林道などから徒歩でたやすく行ける場所に限られていました。
 私が訪れるのは、地方都市の近郊の渓流に限られていましたから、目にする砂防堰堤や乗り越えなければならない砂防堰堤の数も限られていて、現在のように、訪れる渓流の全てで幾つもの砂防堰堤を目にすることなど無かったのです。
 土砂の過度の流下を防ぐことを目的にして河川の上流部に石や岩を積み上げた砂防堰堤を建設することは明治時代より始められていたのですが、高度成長期以後、コンクリート製の建造物をどこでも自由に建設出来るようになったので、日本中の河川上流で極めて多くの砂防堰堤が建設されるようになりました。それは、比較的最近の、ここ四、五十年の間の出来事ではないでしょうか。  

 それでも渓流釣りを始めた当時、私は、砂防堰堤に違和感を覚えることが多かったのです。砂防堰堤の建設によって、魚やその他の生物の移動に不都合が生じている事は直ぐに理解できたことですが、それ以外にも、どこかおかしい、何か違っていると感じていました。でも、それが何なのか、何故なのかを説明することは出来ませんでした。砂防堰堤の建設がおかしい或いは間違えていると、具体的に論理的に説明することが出来なかったのです。
 そして、それが出来るようになったのは、比較的近年の事です。

 砂防堰堤は何のために建設されているのでしょう、或いはどのような役に立っているのでしょう。専門家でなくても普通に考えて分かることがあります。
 砂防堰堤の建設によって、上流の流れの傾斜を穏やかにして、河川上流の土砂の過度の流下を防ぐことを意図していると考えられるのです。丁度、河川上流にある滝ではその上流側の流れが穏やかであることが多い、と同じような効果を目指しているのではないでしょうか。
 また、流れの傾斜を穏やかにすることで、土石流の発生やその流下の拡大を防ぐ意図があることも考えられます。

 今となっては少し古い資料ですが、砂防堰堤の役割についてWEB上には、次のような記述がありました。

砂防ダム(さぼうダム)とは
 小さな渓流などに設置される土砂災害防止のための設備(砂防設備)のひとつ。砂防法に基づき整備され、いわゆる一般のダムとは異なり、土砂災害の防止に特化したものを指す。近年ではダムとの区別化を図るために砂防ダムとは呼ばず、砂防堰堤(さぼうえんてい)と呼ぶ方が正しいとされる。
 なお、似たような構造物に床固工(とこがためこう)があるが、両者の区分を便宜上、ダム高が10メートル以上のものを「砂防堰堤」といい、それ以下のものを「床固工」と呼んで区別することもある。目的による区別では、前者の目的は土石流の停止、流出土砂量の調整、地すべりに対して堆積土砂による押さえ盛土としての効果を期待するもの、河床の縦浸食の防止などを目的とするのに対し、後者は河床の縦断形状の安定を期待するものであることが多い。
出典「砂防ダム」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』
最終更新2018年7月23日(日) 07:59 UTC 
URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/
%E7%A0%82%E9%98%B2%E3%83%80%E3%83%A0 

砂防堰堤(さぼうえんてい)とは
 土石流など上流から流れ出る有害な土砂を受け止め、貯まった土砂を少しずつ流すことにより下流に流れる土砂の量を調節する施設です。  
 土砂が砂防堰堤にたまることで川の勾配が緩やかになり、川底や河岸が削られていくのを防ぐとともに、土石流の破壊力を弱めます。  
 また、両岸の山すそを固定し、山の斜面の崩れを防ぐ働きもあります。
出典:国土交通省関東地方整備局ホームページ「日光砂防事務所」 URL:
http://www.ktr.mlit.go.jp/nikko/nikko00005.html 2018年11月21日 引用

  WEB上には他にも幾つもの記述がありますが、私自身の記述も含めて、その目的とする所はほとんど違いが無いようです。

「砂防堰堤」の有効性
 砂防堰堤建設の目的は極めて有意義なものであると言えますが、現実の砂防堰堤は、ほとんどの場合で目的通りの役割を果たしているとは言えません。ここで記述しているは、前述した従来からの砂防堰堤についてです。
 砂防堰堤の上流側には多くの土砂が堆積していますから、その光景から、一見、砂防堰堤が極めて有意義な効果を及ぼしているように見えるのです。でも、実際には、目的とは全く逆の事態を引き起こしています。その意図するところとは、全く逆の効果を生じさせているのです。
 全ての砂防堰堤が失敗であるとは言えないのですが、ほとんどの砂防堰堤が失敗であると言えます。

 私が渓流釣りを始めた当時でも、これはおかしいと間違いなく言える状況がありました。砂防堰堤の建設のためには幾つもの建設機械や機材を現場に持ち込む必要があり、その搬入のために、既存の道路から山腹を経由して現場まで新たな道路を設置する必要が生じる場合が多くあります。
 その道路の建設のためにおびただしい土砂を河川に流失させている例がありました。場合によっては、新たな砂防堰堤の上流側に堆積させることの出来る土砂量よりも多くの土砂を河川に排出していると思われる状況さえありました。
 現実の砂防堰堤では、その上流側でも下流側でも深刻な問題が発生していますが、それらの問題点は、いずれも、第3章で記述した「自然の敷石」と「自然の石組」の形成と破壊に関わる問題点です。
 まず、はじめに、上流側に発生する問題点から考えてみます。


                         

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