「なぜ、上流の水の流れは透明なのか」
―河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える―
第1章 河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性(4/4)−第3節
第3節 土石流や土砂崩れによる土砂の発生
土石流や土砂崩れによる土砂の発生
河川上流や中流で時折発生している土石流や土砂崩れによる土砂移動では、流れ下る或いは崩れ落ちる土砂に何らかの規則性を見出すことは困難です。
土石流では、大小様々な大きさの土砂が一気に下流に向かって流れ下ります。時としてその流れでは、特別規模が大きな増水時であっても流下させる事の出来ないほどの巨岩や巨石が流下することもあります。土石流によって流下する石や岩は大きさの順に流れ下るのではなく、様々な大きさの石や岩も土も砂も水も混然となっていちどきに流れ下っています。また、立木が巻き込まれている事も多いのです。
土砂崩れの場合では、土石流と区別が付かない程に大量の土砂が河川敷に落ちてくることもあれば、僅かな石や岩或いは土や砂が河川敷に崩れ落ちるだけのこともあります。
そして、土石流の場合でも土砂崩れの場合でも、発生する場所ごとに石や岩の量や大きさも土砂の量も異なっています。また、それが一度だけで終了するとは限らないようで、場所を少しずつ変えて幾度も生じている事もあります。
土石流や土砂崩れによって生じた様々な大きさの土砂のほとんどは、その後の降雨と流水によって、やがて下方や下流側に移動して行きます。この時の流下の仕方は前述した通常の土砂流下と堆積の規則性に従ったものです。
これらの場合、河川敷や水流に新たに加わる石や岩には、特徴的な形状があります。土石流や土砂崩れによって新たに生じた石や岩には、尖った角が幾つもある事が多いのです。それに比べて以前から河川敷にあり、幾度もの流下移動を経た石や岩は角が尖る事が少なく、角が丸まっている事が多いのです。
上流で土砂崩れの跡を通り過ぎる時には、その周囲に角が鋭い石や岩を多く見ることが出来ます。
土石流や土砂崩れによる土砂の特徴
河川の河川敷や水流中にある石や岩やその他の土砂は、そのほとんどが山々から産出されたものです。水流よりも高い位置にあったから、重力によって河川敷や水流中に落下或いは移動して来たのです。つまり、河川にあるほとんどの土砂の源は、土石流や土砂崩れであると言って良いと思うのです。
各地の上流や中流で水流に接する山腹や山裾を観察すると、土砂崩れの跡を見つける事があります。それらの内の幾つかは土木工事が施されている事もありますが、多くは自然状態のまま残されています。
それら自然のままの土砂崩れの跡を見ると、木々を失い土砂を剥き出しにした斜面から産出された土砂のほとんどは土や砂や小さな石や岩であり、大きな石や岩の数は少ないことが多いのです。残され堆積し或いは河川敷に至った土砂の中の大きな石や岩の量は僅かでしか無く、大きさが大きい程にその数も少ないのが普通に思われます。
ですから、河川にある多くの土砂の源である土石流や土砂崩れが産出しているのは、そのほとんどが土や砂や小さな石や岩であり、大きな石や岩の割合は僅かであり、大きなものほど少ないのではないでしょうか。
もちろん、全ての土石流や土砂崩れがそうであると考えているのではありません。「岩崩れ」と言う言葉があるくらいですから、石や岩が多くて小さな土砂が少ない土砂崩れや土石流があるのでしょう。でも、それらは、高山地帯や石や岩が斜面に露出した特別の区域に限られているのではないでしょうか。
著者個人の経験から言えば、「岩崩れ」に該当することが考えられる地形やその跡を見たのは、高山地帯の山腹に限っての事でした。
土石流や土砂崩れは上流や中流で時々発生していますが、頻繁に生じているのではありません。そして、数少ないそのような機会であっても、産出されるのはその多くが小さな土砂であり、大きな石や岩が産出されている機会は決して多くありません。
土石流や土砂崩れが残した巨石、巨岩
土石流や土砂崩れの後では、巨大過ぎて特別規模が大きな増水でも移動しない程に大きな石や岩が河川敷に残されている事があります。それらの巨大な石や岩を「特別に大きな石や岩」と呼ぶことにしてみます。それら「特別に大きな石や岩」は、上流部に多くありますが、中流部で見ることもあります。
それらの巨大な石や岩は、極めて長い期間に亘って河川敷の同じ場所にあり続けています。そして、「特別に大きな石や岩」が流れの中や岸辺にあれば、その場所に淵が形成されることが多いのです。
降雨による増水時の土砂流下によって移動する石や岩と比べて、ほとんど移動することの無い巨大な石や岩には明らかな特徴があります。特別規模が大きな増水や、規模の大きな増水や、普通の増水によって流下移動する様々な石や岩の大きさの変化には連続性がありますが、それらの特別大きな石や岩は大きさの変化の連続性からかけ離れています。
仮に、上流や中流のそれぞれの特定の場所にある石や岩を集めてその大きさの順に並べたとします。そうすると、大きな石や岩から小さな石まで順に並べた隣り合う石や岩ごとの大きさの違いは大きくはありません。つまり、様々な規模の増水によって流下する石や岩の大きさを比較した時に、大きな石や岩から小さな小石や砂利に至るまでその大きさの変化には連続性があるのです。
それに対して、「特別に大きな石や岩」は、大きさの変化の連続性を離れて大きいのです。それらの巨石や巨岩は特別に大きいのであり、大き過ぎるのです。
これらのことは、上流部の河川敷にある石や岩を実際に観察すれば、確かめる事が出来ると思います。
上流や中流の土砂流下と土砂堆積
上流や中流にある土砂堆積は幾多の土砂流下の結果です。それは、先に記述した様々な様相の小地形でも同じです。
私たちが河川敷や川の流れの中に見ることが出来る大きな石や岩は、それぞれが個別に流下して来てそれぞれの場所にとどまったのではありません。 それら大きな石や岩が流下してきた時には、それらよりも小さな石や岩も砂利や砂などの小さな土砂も同時に大量に流下して来ていたのです。 河川の水流によって特定の大きさの石や岩だけが流下することはあり得ません。
もしも、河川敷の高い位置に石や岩が残されているとしたら、それらの石や岩が流下して来た時には、それらとほぼ同じかそれよりも高い位置にまで水や土砂が流れていたのです。そして、その時の河川敷自体が高い位置にあった可能性も大きいのです。
河川敷や流れの中にある石や岩が大きければ大きいほど、それらが流下して来た時の流下水量と流下した土砂の全体量は多かったはずです。また、それぞれの場所にある全ての土砂が同じ時に流下して来ていたとは限りません。
それらは、ほとんどの場合で、幾度もの土砂流下によってそれらの場所に至ったのです。
それらの場所に石や岩が残されているのは、それらの石や岩と一緒に流れ下って来ていた小さな土砂の多くが、水流によって流下してしまった結果に過ぎません。 もちろん、それら流れ下って行った土砂もいちどきに流れ下ったのではありません。
既に幾度も記述しているように、上流や中流にある石や岩は大きいほど流下し難いのです。それらは長い年月を掛けて少しずつ下流に向けて下って行きます。また、それらの石や岩は大きいほど容易に産出されません。
河川にある石や岩は、大きければ大きいほどその数が少なく、大きければ大きいほど流下し難いのです。そして、大きければ大きいほど上流や中流で果たしている機能も大きいのです。
ですから、上流や中流にある大きな石や岩は重要であり、大きければ大きいほど貴重で重要な存在だと考えています。
上流や中流にある石や岩の事を考えると、河川上流や中流のありさまは不思議な光景だと言えるかもしれません。 何百年、或いはそれ以上の昔に流れ下ってきたかもしれない石や岩と、
数か月前に流れ下って来たかもしれない石や岩が、一緒になって様々な光景を形成しているのですから。