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「なぜ、上流の水の流れは透明なのか」


―河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える―


 第1章 河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性(1/4)−第1節
2024/05/25
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一部訂正


第1節 河川上流中流の土砂流下と堆積の特徴

河川上流中流の増水と濁りの発生
 「まえがき」で記述しましたように、私の研究対象は、日本全国の多くの地域で誰でもが目にすることが出来る河川上流中流での現象です。ですから、本書の説明でも、皆さんが既に見聞きしたり承知したりしている事柄が多いと考えています。そして、「上流の水の流れが透明」である事の理由を説明するためには、それを実現しているための幾つもの現象から説明する必要があります。そこで、先ず最初に、皆さんの多くが承知していると思われるそれらの幾つかの現象から説明を始めたいと思います。

 私たちが、河川上流や中流で普段見る水の流れは透明で、雨が降って水量が多少増えた時でも、透明な流れであることが多いのです。雨が多く降り水量が増えて流れに濁りが生じたとしても、雨が止み何日かすれば流れは透明に戻ります。
  ところが、集中豪雨や台風など数年や数十年に一度などと言われる、大量の雨が降った後ではこれらの事情は異なって来ます。ほとんどの河川の場合で、発生した濁りは容易に消えません。雨が止んだ後、増水が解消して濁りが去り、透明な流れに戻るのに数週間も或いはそれ以上に掛かったりもします。また、水量が平水(ヘイスイ)と呼ばれる通常の水量に戻っても濁りが消えない事もあります。
 そのような大雨による規模の大きな増水の後では、透明な流れに戻った後に少しの降雨があれば、水量がそれほど増加しなくても直ぐに濁りが発生してなかなか消え去りません。大量の雨が降る前であったならば直ぐに透明な流れに戻ったはずなのに、濁りが容易に消えない期間が長く続きます。
 そのような変化が生じた河川であっても、その後に何度も雨が降って、数か月以上の日数が経過した後には、 増水の後の濁りの解消が少し早くなってきます。小規模な増水では濁りの発生が少なくなり、やがて、普通の増水でも濁りが発生しなくなります。小規模な増水の度に生じていた濁りが発生しなくなるのは、年を単位とするような年月の経過の後に生じる事が多いのです。
  大規模な増水によって酷い濁りが生じた河川でも、数年から十年ほどの年月を経た後には、普通の降雨では容易に濁りが生じない透明な流れが自然に保たれるようになります。また、渓流の近くに住んでいる人や釣り人や漁協の皆さんなら気が付いている事ですが、近年は、昔に比べて濁りが発生する頻度が多くなり、その解消も遅くなっている事実もあります。

 河川の濁りは土砂の流下によって発生します。その濁りの元は、土砂中に含まれる土や砂や、それらの小さな粒子であり、水量が増加して水流が強くなると川底や岸辺の土砂が多く流下するので、それらの土砂中から濁りの素の土や砂や小さな粒子が大量に水中に放出されるのだと言われています。
 ですから、水量が多く濁りが酷い時には、大量の土砂が流下しているのであり、濁りが薄いときには土砂の流下量が少ないと考えられます。

 上流中流で普段目にしている、透明で容易に濁りが発生しない流れであっても、大増水になれば大量の土砂が流下して酷い濁りが発生するのに、その後何年も経過すると河川は元の透明な流れに自然に戻ります。この奇妙な現象はどうして発生するのでしょうか。
 水量の減少と共に濁りが減るのは、土砂を流下させる水量が減少したからだと言う説明が出来そうです。 また、月日の経過によって濁りが発生しなくなるのは、濁りの元となる土砂が下流に流れ去ってしまったからだと言えるかもしれません。 でも、これらの考え方だけでは納得できません。

 規模が大きな増水の時に、酷い濁りを発生させて大量に流下する大小様々な土砂は何処から発生するのでしょうか。上流に土石流や土砂崩れがなかった時でも大量の土砂が流下します。それらの土砂は、過去の増水によって流下してしまったはずでは無かったのでしょうか。これらの事を考慮すると上述した考え方は適切であるとは言えません。透明な流れであった時には土砂は流下しなかったのに、大きな増水の後では何故土砂が流下し続けるのでしょうか。土石流や土砂崩れが無くても流下する土砂は、何処から発生したのでしょう。
 河川上流中流での水流と土砂の流下に関わる現象はどこか矛盾していると思います。これらの不可解な状況は、水量の増減以外の理由によっても土砂の流下量が変化しているから生じているのではないでしょうか。この問題は、冒頭で提示した「なぜ、上流の水の流れは透明なのか」の問題そのものなのです。

河川上流中流の土砂流下の特徴
 河川上流中流では、規模が大きな増水を契機として、流れる水量と流下する土砂の量との関係が大きく変化します。
 規模が大きな増水があると何故に大量の土砂が流下するのか、と言う問題は、逆に言うと、普段の水の流れが透明であるのは何故だろうかと言う問題であり、水量の増加に対して土砂の流下量が増加しない普段の状況は何故に生じているのかと言う問題でもあります。

 河川上流中流の濁りの発生状況は、河川下流部のそれとは明らかに異なっています。河川下流ではその川底や岸辺に存在するのは多くの場合で砂や土や泥であり、それらの土砂は水量が増加すればその流下量も増加します。河川下流部では、水量の増加にほとんど比例して土砂の流下量を増加させていると考えられます。
  それに対して、上流中流での土砂流下状況は異なります。第一に、水量の増加によって流下する土砂の質と量が異なってきます。つまり、増水の初めには小さな土や砂や砂利などから流下し始めて、さらに水量の増加があれば次第に大きな石や岩なども流下するようになり、その流下量も増加します。
 そして、第二には、前述したように、水量の増加に対して土砂の流下量が必ずしも増加するとは限らない状況もあります。

 河川上流中流には、石や岩、砂利や小砂利、砂や土、さらにはそれらよりも小さな粒子など様々な大きさの土砂がありますが、それらの土砂は流れがあるからと言っても常に流下している訳ではありません。
 と言うのも、水の流れでは、その時々の流れの強さによって流下させる事の出来る土砂の大きさが異なっているからです。大きな石や岩は流れが余程強くなければ下流に移動することがありません。それに対して小さな土や砂などは水流が少し強くなれば容易に流下します。
 言い換えると、河川では石や岩など大きなものほど流れ難く、砂や土など小さな土砂ほど流れ易いのです。これは、河川における土砂流下の基本的性質、つまり、規則性だと言えます、
 ただし、濁りが全く無い時であっても多少の土砂が移動している現象を見ることがあります。これは、幾たびもの増水により、土砂中に含まれる濁りの素の小さな粒子が洗い流されたので、流れ下る土砂中には濁りの素が既に無くなっているからだと考えられます。そのような時に、濁りが生じないまま流下するのは多くの場合で砂や小砂利です。

河川上流中流に見る土砂堆積の様々な様相  
 上流中流には大小様々な大きさの石、岩、土砂が大量にあり、それらは流水によって流下し同時に堆積もしていますから、下流域では見られない特徴的な土砂堆積の様相が生じています。それらは、土砂と水によって形成された小規模な地形として多くの人に知られています。

  水流と土砂堆積の様相の一つは、「淵」と呼ばれています。「淵」は、その周囲の流れに比べ深くて広くなっていて、その流れは周囲よりも穏やかで、流れに接して大きな石や岩があるのが普通です。
 「淵」に対して「瀬」と呼ばれる小地形もあります。「瀬」は「淵」でないところが全て「瀬」と呼ばれるのですが、それをさらに「荒瀬」「早瀬」「平瀬」「ザラ瀬」などと区分することもあります。
  「荒瀬」は、流れの乱れ方が最も激しい場所で、段差がいくつもあり波と白い泡が随所に生じています。水面上の所々で石や岩が露出している事も多く、水流の方向もそれぞれの場所で複雑に乱れて入り混じっているのが普通です。
  「早瀬」では、石や岩が水面から頭を出しているとは限りませんが、泡立ちが無くても波立ちが多くあり、流れが速いのが特徴です。
 「平瀬」は、水流が広がった場所に多く。「荒瀬」や「早瀬」に比べて水底や周囲の石や岩の大きさが小さく、比較的浅い水流もそれほど速くありません。石や岩が水面に頭を出している事もあります。
  「ザラ瀬」は、「平瀬」よりも浅くて水底の石や岩もさらに小さく、水の流れも穏やかです。
 「淵」も「瀬」にも、一定の広さ或いは距離がありますから、それぞれの上流側の始まりの箇所を「淵頭」(フチガシラ)「瀬頭」(セガシラ)と呼び、その終端を「淵尻」(フチジリ)「瀬尻」(セジリ)と呼んだりもしています。

 但し、これらの区分は必ずしも厳密なものでは無いので、河川の大小により、人によりその定義や区分が多少異なっていたりもします。実際、これらの小地形は同じ場所で入り混じっている事も多くあるので、区分できる類型では無く、上流中流を形成している要素と言うべきかもしれません。 上流中流で見るこれらの特徴的な小地形の形成も、上流中流の土砂流下と堆積の規則性の現われであると考えられます。
 なお、上記の他に「滝」及び「瀑布帯」と呼ばれる地形もあります。
 「滝」は、流れを横断する岩盤や巨石や巨岩がある場所に形成されていて、水流に大きな落差が生じています。
  「瀑布帯」は、急傾斜の流れとその周囲に、巨大な石や岩が折り重なって連続し、或いは岸壁や岩盤が連続している地形で、「滝」が数多くあり、ほとんどの場所で人が立ち入ることは極めて困難です。

河川では上流になるほど石や岩の大きさが大きい
 河川の上流や中流では、上流であるほどに石や岩の大きさが大きくなっています。これは、日本の渓流や清流を眺めたことがある人ならほとんどの人が気が付いている事柄でしょう。このことを正確に言うと、河川上流や中流では、それぞれの場所の河川敷や水流中に多くある石や岩の中での大きな石や岩の大きさが、上流に至るほど大きくなっている、と言う事になると思います。
 また、それらの石や岩は上流にある程ごつごつとして角が多く、下流に近づくほど角が取れて丸くなっている事にも気づいている事でしょう。
 
 上流になるほど石や岩が大きいとは言っても、それぞれの場所にある全ての石や岩の大きさが大きいのではなく、それぞれの場所ごとにある大きな石や岩の大きさが上流に至るほど大きくなり、逆に下流に近づくほど小さくなっているのです。ですから、ここで言う大きな石や岩の大きさは、上流から中流に至るそれぞれの場所ごとに異なっています。
  それぞれの場所での大きな石や岩より小さな普通の石や岩の大きさは、それらの場所よりも下流側にある石や岩の大きさと変わりはありません。それぞれの場所には大きな石や岩の他にも、それらより小さな石や岩が多くあり、さらに小さな砂や土も多くあります。
 それでも、上流になるほど石や岩が大きい事をほとんどの人が容易に気が付くのは、それぞれの場所にある大きな石や岩は、それだけ目立つ存在であるからでしょう。

 これらの事は、石や岩の多いほとんどの河川の場合で当てはまります。例えば、上流に軽自動車ほどに大きな岩がある河川でも、或いは上流にある石の大きさが一抱えほどの石でしかない小さな流れでも、当てはまる事柄です。
  どこの河川でも、上流より下流側になるほど、それぞれの場所ごとにある大きな石や岩の大きさは小さくなっています。このことは、それぞれの河川や水流でそれぞれに生じている事柄です。つまり、上流に巨岩が多くある水流がある一方で、上流にある岩が一抱えほどの石や岩でしかない水流もあり、それぞれの水流ごとに上流になるほど石や岩が大きくなっているのです。
 この現象は、河川の流れの傾斜と流れる水量の違いによってそれぞれの場所ごとにその浸食と堆積の程度が違うので、水流に残された石や岩の大きさも場所ごとに異なっているからだと考えられます。

 上流ほど石や岩の大きさが大きいことは、多くの人が認識している事ですが、このことは、全くの正しい事実とは言えません。
 石や岩が大きくなった上流部をさらに遡り或いは小さな支流に分け入れば、石や岩の大きさが小さくなっていることが多くあります。水源地近くの流れの石や岩の大きさが、その場所の下流よりも小さい事も珍しくありません。さらに、上流部であっても穏やかな流れが続く場所では、それらの場所の下流側よりも、石や岩の大きさが小さいのが普通です。
 私は、これらいくつかの現象の理由を以下のように考えています。上流では水量が少なくても流れの傾斜が強いので、小さな石や岩は下流側に流される事が多く、大きな石や岩はそれぞれの場所にとどまり続けます。上流であっても傾斜が少ない流れや、普段の水量が少ない流れでは、小さな石や岩も残り易くなるので、その場所の石や岩は比較的小さいと考えられるのです。
 水量が多くても傾斜が少ない中流では、絶対的意味での小さな石や岩が多くとどまっていますが、絶対的意味での大きな石や岩が流下して来ることはありません。

  上流ほど石や岩の大きさが次第に大きくなる現象は、ありふれた光景ですが、河川のそれぞれの場所ごとに状況が異なるので、全ての河川でまた全ての場所で当てはまるとは言えません。
 河川には幾つもの支流や沢が流れ込んでいるのが普通で、また流れの岸辺に土砂崩れが発生して、それらからも石や岩が落下し流下して来るので、流れの途中に大きな石や岩があることも良く見る光景です。また、流れの傾斜もそれぞれの場所ごとに異なっているのも普通です。
  まえがきに記述した「富士川」の場合などはこの例にあてはまります。

  渓流や清流の石や岩を観察する
 私は、河川や土木工事の専門家ではありません。河川の行政や河川工事やそれらを研究する仕事に携わった事もありません。言うならば、私は、アマチュアの観察者に過ぎません。私は、上記の仕事等に全く関わりの無い職業に就き、趣味として渓流釣りを楽しんでいるうちに「淵がどうして出来るのか」と言う個人的好奇心による疑問にはまり込み、上流中流の問題の深みに引きずり込まれたのでした。

  渓流の釣り人としての私が、目的とする河川の岸辺に立った時、最初に見るのはその水流が透明であるか否かです。次に確かめるのは水位の状況です。河川の水位は河川の水量を現しています。濁りが多く残っていたり、水量が余りに多ければ、元来た山道を引き返すこともあります。
  河川上流中流の水量は海などに比べて極めて少ないので、渓流に棲む魚類は水量の増減に敏感に反応しています。水量の変化によって、魚類の居場所や餌を摂る場所は微妙に異なり、釣り人は、それらに対応する必要があります。
 また、水量が多い時であれば、移動時の行動もより慎重にしなければなりません。釣り人にとって、渓流の水量は安全に関わる重要な問題でもあるのです。  

 その時々の水量が多いか少ないかは、岸辺の石や岩を観察することによって確かめる事が出来ます。  
 石や岩が長年に亘り安定して同じ場所にある渓流の岸辺では、水面上の平行した位置に「苔」が生育している事が多いのです。水量が多ければ、「苔」は水に浸かっています。また、「苔」が無ければ、水際の石や岩がどの程度「日焼け」しているかを見ます。常に水の中に没している場所と、乾いて日に当たる事が多い場所では、同じ石や岩であってもその色が明らかに異なります。
 最近大きな増水があった渓流では、石や岩に付いた「苔」や、日に焼けた石や岩を見る事は出来ません。流れ下る石や砂によってそれらの表面が磨滅しているからです。

 上流であってもほとんど角が取れて摩滅している石や岩を見ることがあります。それは、その場所で、土石流や特別規模が大きな増水が度々発生することなく水量が安定して保たれていたので、それらの石や岩が長いあいだ移動流下せず、安定してその場所にあり続けた事を現していると考えられます。
 岸辺にある石や岩が割れていたり多くの角を持っていることもあります。それは、それらの石や岩が上部の山肌から落下して来たことの現れだと考えます。そのような場所は足早に通り抜けます。
 水辺の石や岩だけでなく河川敷も観察します。河川敷の広さや、石や岩の量や、それらの大きさや、散乱しているかどうか、或いは砂が多いかどうか、はたまた、岸辺の傾斜や岸辺近くにまで草木が成長しているかどうかなど等。
 もちろん、実際に釣りを始めれば、水中の石や岩のあり様に注意を注ぎ、流れが早い流心の位置や水流の深さも観察しています。
 それらの幾つもの事柄は、その渓流の近年と最近の状況を現しているのです。渓流が増水によって荒れる事無く安定しているほど、渓流魚が多く棲息し、良く成育している可能性が大きいと考えられます。ですから、水流とその周囲の様々な状況は、魚類にとって重要な問題であるだけでなく、釣り人にとっても大きな関心事でもあるのです。

 河川上流や中流で多くの土砂が流下するのは、大きな増水の時に限られていますが、その時には河川は濁っているのが普通で、土砂の流下の実態を直接に観察することは出来ません。また、上流中流には極めて多くの石や岩やその他の土砂がありますが、それら個々の土砂が流下する時の実態を観察して理解することはほとんど不可能です。
 それでも、その時々の土砂流下の結果を知ることは可能です。増水が終わり流れが透明になれば、河川敷だけでなく岸辺や流れの中の石や岩や土砂の状態を容易に確かめる事が出来ます。いや、土砂流下の実態を観察して理解するには、その方法しか無いと言えます。
 ですから、土砂流下と堆積に関わる規則性を探り出すためには、時々の河川の土砂の状態や増水後の状態を観察し、年月の経過によるそれらの変化の状況を個別的に観察し、その他の河川と比較する事によって、それが可能になると考えています。

 そのようにして、岸辺や水中の石や岩や河川敷を観察し続けているうちに、私は、岸辺の石や岩と、その前の水流や川底の土砂との関係に気付き、さらに、上流と中流の全体、河川流域全体での水流と土砂との関係についても考えを深めていったのです。

増水時の水量を区分する
  降雨によって流下水量が変化して水流の強さが変化します。もちろん、水量が増加すれば水流が強くなり、水量が減少すれば水流は弱くなるのですが、その状況はそれぞれの河川ごと場所ごとに異なります。例えば、それぞれの河川ごとに流下水量は異なり、流れの傾斜が異なることもあれば、水流の幅が異なる事もあります。それらの事情によって流下する土砂はその大きさやその量も異なりさらに変化もしています。
 これらの様々な状況を一括して解り易く説明することは極めて困難に思われますので、この項目以降の記述では、水量の増減の状況に関して、それを幾つかに区分することにしました。
 先ず、数十年に一度発生するような特別規模の大きな増水を「特別規模が大きな増水」とします。数年或いは年に一度位発生する増水を「規模の大きな増水」とします。また、一年に何回か発生する位の増水を「規模が中程度の普通の増水」として、一年に幾度も発生する小規模な増水を「規模の小さな増水」と記述します。
 この区分は、単に水量の多い少ないを表現するだけでなく、同時に、増水に伴う土砂の流下量も表現することを意図するものです。「特別規模が大きな増水」では水中や河川敷にある石や岩を始めとしてほとんどの土砂が流下移動し、「規模が小さな増水」の時に流下するのは砂や小砂利など小さな土砂に限られる、と考えます。

 河川の水量は、時々の降雨状況によって異なっています。短時間に大量に雨が降ることもあれば、少量の雨が長く続くこともあり、その様相は様々に異なっています。もちろん、雨が降らない期間もあります。極めて大量の水量が流れ下る事もあれば、渇水期もあるのですが、極めて大量の水が流れ下る機会はたいへん少なく、僅かな増水の機会ほど多いのです。
 また、その河川での平均的な水量の状況を「平水」(ヘイスイ)と呼んだりもするのですが、その実際の水量の値には幅があり、季節によって平水時の水量が異なる事も普通です。
 ですから、「特別規模が大きな増水」は極めて発生頻度が少なく、「規模の小さな増水」は頻繁に発生していることになります。

  この区分では、それぞれの河川ごとにその実際の水量は異なっています。また、それぞれの河川ごとであっても区分の境界は曖昧なものでもあります。
  しかし、増水の規模をこのように区別することによって、その時々に生じる様々な大きさの土砂の移動がより理解し易くなると考えます。つまり、これらの区分は、実際に生じている水量と土砂の流下を直接に表現するものではなく、それらの簡略なモデルを示しているのに過ぎません。
 実際、それぞれの河川ごと場所ごとに異なる水量とその変化を具体的数値を持って示したところで、それぞれの河川の土砂流下の状況を理解することは不可能で、それぞれの河川では水量が異なるだけでなく、流下する石や岩やその他の土砂の大きさもその量も異なっているのです。
 仮に、ある地域に台風が来て大雨が降ったとしても、その地域の全ての河川が同じように濁る事はありません。ある河川では酷い濁りが生じても、ある河川や支流では濁りが少ない事などは珍しいことでは無く、地域によっては、大雨が降っても濁りが容易に発生しない河川もあります。
  何よりも重要な事は、この区分方法を用いることによって、実際の河川で発生している現象をより良く理解できるようになる、ことだと考えています。  


                         
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